米国:マラリア伝播を防ぐ遺伝子組み換え蚊

農業情報研究所(WAPIC)

2002.5.8

 米国のケース・ウエスタン・リザーブ大学の研究チームがマラリアの伝達能力を減らす遺伝子組み換え蚊の創出に成功したとNature誌に発表した(Marcelo Jocobs-Lorena et al,Transgenic anopheline mosquitoes impaired in transmission of a malaria parasite,Nature 417, 452 - 455 (2002))。

 マラリアにより年間200万人ほどが死亡すると推定されており、今後はさらに増加すると見られているが、マラリア原虫が薬剤抵抗性を発達させり、蚊が殺虫剤に抵抗的になったり、また有効なワクチンの開発も成功していないなどのために、今までのところ、この病気の制御の努力は実っていない。

 マラリア原虫は蚊の消化管を通過して唾液に移動、その後人や動物の体内に入ることでライフサイクルを完成するが、研究者達は蚊の消化管通過を阻止する蛋白質を確認、この蛋白質の生産を可能にする遺伝子を組み込んだ。このような蚊に噛まれたマウスへの病気の伝達は普通の蚊に噛まれた場合よりもおよそ80%少ないという。研究者は、野生の蚊の数が殺虫剤で減ったところに実験室で作り出された遺伝子組み換え蚊を放つことで、病気の制御が可能になると考えている。しかし、それはしばらく先のことになる。

 研究者は、そのためには、なお多くの研究が必要と認めている。伝達をさらに減らすために、蚊の体内での原虫のライフサイクルの他の局面を阻止する遺伝子の追加が必要であるし、人間に感染する原虫種についての研究はまだなされていない。実験ではインドでマラリアを伝播させる蚊が使われており、病気発生率が最も高いアフリカで人間にマラリアを伝播させる種の蚊の遺伝子操作はこれからである。

 しかしながら、このような研究に対して、遺伝子組み替え昆虫の環境影響を懸念する声もあがっている。「ワシントン・ポスト」紙の記事によれば(Gene-Altered Mosquito May Aid Malaria Fight ,The Washington Post,5.23)、専門家の中には、そのようなプログラムが生態系の混乱をもたらし、最終的には病気を減らすどころか増やすことになるのではないかと恐れる者もいる。この研究は、米国には人間や動物に病気を伝達しうる遺伝子組み換え昆虫の実験的放出を制限する規則がないという事実に改めて注目させることにもなった。国際技術評価センターのAndrew Kimbrellは、規則ができるまで遺伝子操作昆虫の放出を阻止するように求める請願書を連邦政府に提出したという。また、ハーバード大学の熱帯公衆衛生教授であるAndrew Spieimanも、マラリア地域に遺伝子操作蚊を放つことは生態学的に分別がなく、多分、医学的にも無益であろうと言っている。

 HOME  GMO