ドイツ議会、GM作物法案を採択 非GM作物汚染農民に賠償責任

農業情報研究所(WAPIC)

04.11.27

 ドイツ下院が26日、遺伝子組み換え(GM)食品・作物から消費者と農民を護る新たな法案を圧倒的多数で採択した。法案は、GM作物が非GM作物を汚染した場合、GM農民・事業者が引き起こされた経済的損害に金銭的責任を負うという原則を導入する。長い間論争の的となってきたこの法案は、上院での承認を経て、今年中にも最終的に成立する見通しとなった。

 地球の友・ヨーロッパによると、柱となる条項は次の三つである。

 ・経済的損害が生じた場合、すなわち有機または非GM農民がGM汚染のためにその生産物を有機生産物または非GM生産物として販売できない場合、GM作物を栽培する農民が賠償責任を負う。

 ・汚染を引き起こした農民がはっきり特定できない場合には、すべての近隣GM農民が共同で責任を負う。これにより、損害を受けた農民はどの隣人に補償を要求するかを決めなくて済むことになる。

 ・GM作物栽培農民は登録せねばならず、GM作物がどこで放出されるかに関する情報が公開されることになる。

 フィナンシャル・タイムズ紙によると(German bill lays down strict rules for 'genetic' crops,FT.com-world,11.26)、GM作物栽培者は、圃場の周囲を非GM植物の生垣で囲うなどの交差汚染防止策も講じなければならない。

 とはいえ、地球の友・ヨーロッパは、この法律にはなお抜け穴がある、最も重要なのは、この法律はGM作物がもたらす環境損傷をカバーするのが難しいことだと言う。生態的に重要な区域でのGM作物の屋外実験・利用・取扱は環境に損傷がないときにのみ許されるが、このような区域は、EU指令に基づき指定された”Natura 2000”区域に限られ、それはドイツの面積の2.5%にすぎない。また、特別区域における禁止が正当化されるために必要なGM作物が環境を脅かすという当局の証明がどのようになされるかも残された問題だという。

 地球の友は、さらに、このドイツ法は過剰な規制を課すとして、欧州委員会が欧州裁判所に訴えることも恐れている。地球の友が入手した04年7月の文書で、欧州委員会は既にこの方向を示唆しているという。欧州委員会は、この法案の以前のバージョンに反対を表明していたが、フィナンシャル・タイムス紙によると、欧州委員会のスポークスマンは、今回の最終バージョンは未だ見ていないと語っている。

 産業界の反発も強いようだ。同紙によると、北ドイツバイテク企業連盟・BioConValleyの常務は、「これは破滅的結果をもたらす。農業におけるバイオテクノロジー利用を何年も前に引き戻す」と語る。また、ベルリンのバイテク企業・Metanomicsの最高経営責任者は、「この法律はGM作物栽培を余りに危険にする。インシュリン生産を禁止した80年代の同じ間違いを繰り返すことになる。製薬企業は未だに回復していない」と言い、バイエル・クロップサイエンスの会長は、結果的に研究能力が流出、決して戻ることはないだろうと言う。同社は、英国で最後まで残っていた二つのGM種子―除草剤耐性の冬・春採油用ナタネ―の許可申請を断念、英国からの最終的撤退を決めたばかりだ(GM firms finally give up on planting in Britain,The Independent,11.21)。

 ドイツ農業者連盟(DBV)も”遺憾”を表明している。「法律の帰結は、このグリーンな遺伝子技術の利益と不利益を公平に調査する研究開発が無視されるということだろう」と言う(German farmers to be liable for GM contamination,NewScientist.com,11.26)。

 こうした反発も犬の遠吠えになってしまったわけだが、最大の難関は、やはり権限を持つ欧州委員会であろう。バイテク産業の遅れ・後退を何よりも恐れる欧州委員会がこの法律をすんなり認めるとは考えられない。