GM作物は今後10年で世界的に普及する―米国の研究報告

農業情報研究所(WAPIC)

04.12.11

 主要バイテク企業や取引団体で構成されるバイオテクノロジー情報カウンシル(Council for Biotechnology Information)が8日、植物バイオテクノロジーの世界的普及状況に関するミネソタ大学の研究者の手になる報告書(*)を発表した。GM作物の商業栽培は96年に米国で始まったが、それから10年足らずの今、世界18ヵ国で栽培され、その他45ヵ国でも研究・開発が行われているという。

 この研究によると、03/04年作物年度のGM作物生産額は440億ドル(約4兆5千万円)に達し、米国、アルゼンチン、中国、カナダ、ブラジルの5ヵ国でその98%を占める。GM作物の栽培と研究をリードするのは依然として米国で、そのGM大豆・ワタ・コーン・カノーラ(ナタネ)の生産額は275億ドル、世界のGM作物生産額全体の62%を占める。

 米国は、今までに14種のGM作物を承認した。この中には、コーン、ワタ、カノーラ、大豆、メロン、パパイヤ、ジャガイモ、コメ、スカッシュ、シュガービート、タバコ、トマトなどが含まれる。しかし、大規模に栽培されているのは、コーン、ワタ、大豆、カノーラ、スカッシュ、パパイヤ、タバコだけという。現場実験は91年以来行われており、03年には24の作物が実験されている。この中には、菌類抵抗性のジャガイモ、ピーナツ、プラム、バナナ、コメ、レタス、耐塩性キュウリ、除草剤耐性のエンドウ、タマネギ、タバコ、その他多数の作物が含まれるという。

 しかし、GM作物生産のトップ5には、三つの途上国が含まれる。米国を除くトップ5は、アルゼンチン:大豆とコーンで89億ドル、中国:ワタで39億ドル、カナダ:カノーラ・コーン・大豆で20億ドル、ブラジル:大豆で16億ドルである。報告は、今後は途上国の生産が大きく伸びると予想する。今後10年の間に、これら作物や現在開発中の他の作物の栽培を承認する途上国が増え、世界生産額は2,100億ドルに達する、GM作物採用は途上国の国内総生産(GNP)を2%引き上げるという。バイテク研究・開発・生産を行っている63ヵ国の半分以上は途上国である。研究は、GM作物承認と栽培は、今後、アジア、ラテンアメリカ、そしてアフリカの一部で大きく拡大するという。

 例えば中国。今やバイテク研究の中心国になっており、その研究資金は米国に次ぐ。この報告とは別だが、中国に関しては、つい先頃、農業部のバイオセーフティー委員会がいくつかの害虫抵抗性・耐病性のGMイネの安全性の評価を進めており、来年早々にも承認される可能性があると報じられている(**)。コメは中国の基本食糧であり、安全性評価は極めて厳しく、消費者の反GM感情もあるから、簡単には承認されないかもしれないと言う開発者もいる。承認されたとしても、なお最低2年の現場試験による環境影響(花粉飛散による他作物の汚染)評価をクリアせねばならない。商業栽培に漕ぎ付けるかどうかは不透明だ。

 それでも、研究開発は極めて活発、農業部も、今までに注ぎ込まれた巨額の資金を無視はできない。多数のディベロッパーが多額の投資をして開発を競っている。農業部によれば、中国におけるGMイネ研究は80年代に遡る。97年以来、イネ、採油用ナタネ、コーン、小麦、ジャガイモ、大豆などの現場実験が承認されてきた。ただし、今までに安全認証が与えられたのは害虫抵抗性のワタ、トマト、スペイントウガラシ(ピエミント)、アサガオの一品種だけだ。今年、国内のいくつかの育成者が、害虫抵抗性・耐病性・除草剤耐性・日持ちがよいという形質をもつGMイネの評価を申請した。この承認が目下の焦点となっているわけだ。ディベロッパーの圧力は強力、食糧安全保障の確保という抗し難い動機もあるから、近い将来、世界初のGMイネ商業栽培国となるかもしれない。農業部はその承認に備え、既に人々・動物・環境の安全性を確保するための全国規模の監督・監視網を設置した。27の州・自治体・自治区に農業部バイオセーフティー支所を立ち上げたという。

 そうなれば、インド、ブラジルを初め、多くの途上国も競争力確保のためにGMイネ栽培に走るだろう。報告は、既にコーン・ワタ・大豆の商業栽培を承認した南アフリカも、今やGM作物栽培面積で世界6位になっており、アフリカでの開発をリードすると言う。インドでは、害虫抵抗性のワタが栽培・販売されており、少なくとも20の研究機関が16の作物を研究、多くのインド人研究者が第二の「緑の革命」を先導しようと意気込んでいる。ラテンアメリカ・カリブ諸国でも既に五つのGM作物が承認され、アルゼンチン、ブラジルが先導役を演じている。報告書を書いた研究者は、「GM作物に関するヨーロッパのスタンスも、他の世界のバイテク採用を妨げることはできない。EUがこの分野での活動の制限を続ければ、世界的普及は遅れるだろう。だが、これを止めることはできない」と言う。

 EU市場からの締め出しを恐れるアフリカ諸国のGM作物への抵抗はなお大きい。しかし、最近は、GM作物の採用で競争力を高めようとする政府関係者・研究者の声が高まっているのも事実だ(特にケニヤや西アフリカの綿花依存国)。EU市場依存度がそれほど高くない地域ではなおのこと、高まるばかりの競争圧力や気候変動・病害虫多発に備えたバイテク志向に拍車がかかるだろう。例えばフィリピン。病害虫の蔓延で生産性が大きく損なわれ、従ってまた輸出競争力を失い、一部は消滅の危機にさえある産業を救おうと、病害虫抵抗性のGMワタ・パパイヤ・マニラ麻の開発に懸命になっている(***)。報告の予想は、産業の期待を込めたものとは言い切れない。

 バイオテクノロジーは本当に途上国の農業・食糧生産の増強に寄与できるのか。真摯な研究が要請されている。

 *C. Ford Runge and Barry Ryan(University of Minnesota),The Global Diffusion of Plant Biotechnology: International Adoption and Research in 2004,04.12.8
 **Modified rice at least a year away,China Daily,12.2China launches safety evaluation on GM rice, denyingcommercialization in near future,Xinhua.net,12.3
 ***Biotechnology seen boosting ailing sectors,Business World,12.10