モンサントのGM種子訴訟で多数米国農民が破滅の危機

農業情報研究所(WAPIC)

05.1.17

 米国の食品安全センター(CFS)が13日、モンサント社が特許付き遺伝子組み換え(GM)作物を違法に利用したという理由で100人以上の米国農民を告訴、その「種子警察」を使って農民が同社の言う違法行為を犯していないかどうか嗅ぎ回っているという報告書・「モンサント対米国農民(Monsanto vs. U.S. Farmers)」を発表した。CFSは有害な食料生産技術に異議を唱え、持続可能な代替策を提案する米国のNPOで、この報告書はGM作物の利用から生じる訴訟の米国農民への影響に関する最初の詳細な研究である。

 CFSは03年5月にこの調査に着手、徹底した調査、農民や法律家とのインタビューを通じ、モンサントが圧制的調査と冷酷な告発で多くの米国農民のやり方を基本的に変えていることが分かったと言う。これは、自家採種・この種を播くという米国では数百年、世界では千年に及ぶ最古の農民の権利を含め、農業の慣行・伝統を土台からひっくり返す暴挙以外の何ものでもないと批判する。

 報告によれば、モンサントの農業バイテク分野における世界的リーダーとしての地位や、契約によるGM種子への農民の縛り付けは、GM技術に関する特許、種子生殖質、GM種子の農民利用を統制する計画的行動の結果である。モンサントは、特許種子購入に関する会社の技術協定に調印させることで、農民のやり方のコントロールを始める。この協定は、モンサントが農場調査を実施し、農民を巨額の金銭賠償に曝し、多年にわたりモンサントの監督下に置くことを可能にする。また、栽培、収穫、GM種子販売において農民がどのような権利を持ち、持たないかを定める様々な条件も含む。

 一般的に、モンサントの農民告訴の行動は、農民の調査、法廷外での和解、契約違反または特許権侵害を犯していると考える農民の告訴の3段階に分けられる。違反を疑う農民に対する攻撃的調査はモンサント自身が認めており、その数は数千に及ぶことを示す証拠があるという。CFSのインタビューを受けた農民によると、これら調査は、賠償額や条件が非開示の内密の和解に向けての圧力につながる。

 そして、一部の調査は、法廷への告訴につながる。モンサントの米国農民に対する告訴の件数は、今までに90件にのぼり、これらの告訴は米国の半分の州の147の農民と39の小企業にかかわる。こうした調査のために、モンサントは年に1000万ドルを注ぎ込み、75人の専任スタッフを持つ。また、近隣農民の違反を見つけた農民が通報するためのフリーダイヤルも設けている。

 今までに法廷が認めた1件当たりの最大の賠償額は305万2800ドル(約3億2000万円)という法外な額になる。全体では1525億3602万ドル、1件当たり平均41万2260ドル(約4230万円)となる。農民は、これに加え、裁判費用・弁護士費用を払わねばならず、さらにモンサントが払った調査費用までも払わされることがあるという。90件の訴訟で農民が最終的に支払った額は、多くが内密の和解の性質を持つために明らかにならない。この訴訟に巻き込まれれば、農民が破産の危機に陥るのは明らかだ。

 しかも、畑が他人のGM作物の花粉や種で汚染されても、あるいはGM作物栽培をやめたあとに前年までのGM作物が発芽したり、自生しても訴えられるから、どんな農民も安心してはいられない。現在の特許法の適用では、このような場合にも農民は賠償責任を免れない(これは米国だけでなく、多くの他の国でも同様だ)。GM種子利用の覚えがあるかどうか、契約にサインしたことがあるかどうかなどは全く問題にならない。これでは、農民経済に貢献するという謳い文句のGM作物が農民を破滅させる結果にもなりかねない。

 報告は、このような農民「迫害」をやめさせるために、GM作物栽培の地域・州レベルでの禁止やモラトリアム、GM植物が特許の対象にならないように、あるいは自家採種が特許法違反とならないように特許法を修正すること、花粉移動などの生物的汚染を通しての特許法違反では農民に賠償責任を負わせないようにする立法などを提案する。そして、米国の(GM種子が世界を制覇するときには世界の)農民と農業コミュニティーの将来はその実施にかかっていると言う。CSFは、モンサントからの訴訟や脅しに直面する農民を助けるためのフリーダイヤル・ホットラインを設置した。

 だが、一NPOの行動がモンサントによる米国・世界種子市場制覇の野望(世界の食料・農業生産の命運がこの一企業の手に握られることになる)をどこまで食い止めることができるだろうか。04年、米国の大豆とカノーラの85%ほどがGM品種、ワタの4分の3、コーンの半分近くもGM品種だった。モンサントはGM大豆・ワタ・カノーラ種子の市場の90%を支配している。CSFは、それは、まさにモンサントのこのような「会社ぐるみのゆすり」の結果だと批判する。しかし、アメリカ大豆協会のロン・ヘック会長は、GM大豆栽培は非常に効率的でコスト節約的、新しい種子を毎年買うのは気にしないし、種子に払わない競争者をモンサントが取り締まるのは高く評価すると言う(Monsanto Suing Farmers Over Piracy Issues,AP,1.13)。モンサントは30万の正規契約農民を持つという。インター・プレス・サービス(IPS)によると(WORLD SOCIAL FORUM:Monsanto ”Seed Police” Scrutinise Farmers,1.14)によると、CFS常務のアンドリュー・キンブレルは、枢要なポストをモンサント出身者が握る米国農務省や食品医薬局には、「ゆすり」から非契約農民を守る力はない。