グリフォサート過剰依存で増える除草剤耐性雑草 農業多様化が解決策と豪学者

農業情報研究所(WAPIC)

05.2.23

 除草剤耐性遺伝子組み換え(GM)作物(ラウンドアップ・レディー作物)の種子とセットで販売される万能除草剤・グリホサート、米国ではラウンドアップ作物の普及とともに使用量が急増してきた。現在、米国ではラウンドアップ・レディー作物が2400万haで栽培され、グリホサートの年間使用量(有効成分換算)は1億トンを上回る。しかし、雑草学者の間には、雑草の抵抗性が発達し、あるいは雑草が一層の抵抗性をもつ種にシフトすることからくるその有効性の減退への懸念が高まっている。

 Delta Farm Press(Will weed shifts hurt glyphosate’s effectiveness?,2.16)が、今年1月、米国で開かれた会合に集まった雑草学者が表明した懸念について伝えている。ノースカロライナ州立大学の雑草学者・ジョン・ウィルコットは、ラウンドアップ・レディー・システムが除草剤使用パターンに急速な変化をもたらしたことは疑いなく、この変化は耕起を減らし、残留性除草剤使用を激減させる生産システムの急増をもたらした、それは土地と地表水への除草剤の環境負荷と表土の流亡を減らした、「研究は、雑草防除を改善し、収量を最大にする最善で最も費用効率的な方法が一層多くのグリホサートを散布することであることを示した」とこのシステムを称える。

 しかし、それにもかかわらず、この利点は消えつつあるかもしれない。グリホサートの施用回数と施用量は増加し始めた。これは、恐らく、一層の抵抗性をもつ種への雑草の種のシフトを示しており、この変化はラウンドアップ・レディー作物からの栽培者の経済的利益が蝕まれつつあることを示唆すると言う。

 彼によると、グリホサート抵抗性は米国のいくつかのライグラス群、アーカンサスとミズーリのブタクサ、デラウェア・オハイオ・ペンシルバニア・ノースカロライナ・テネシー・アーカンサス・ミシシッピのムカシヨモギに発見された。グリホサート抵抗性は、マレーシアのヤエムグラ(goosegrass)、南アフリカのキク科植物(leabane)でも報告されている。

 彼は、グリホサートの使用パターンと非残留性という事実が、「雑草種内の出現パターン、後に発芽する生物型に変化をもたらし、逸出と後の発芽のための結実の能力を大きくしている。米国の一部雑草学者は、これが既に起きていると考えている」と言う。

 さらに問題なのは、抵抗性は、汎用的除草剤への抵抗性を発達させた歴史のある他の多くの雑草でも生じている可能性が高い。ここでは省略するが、グリホサートを含む既存除草剤への様々な種(ブタクサ類、アカザ類、アマランサス類、多年性雑草、ジョンソングラス、ヨモギ類、ライグラス、オナモミ)の抵抗性の具体例を列挙している。

 それでも彼は、グリホサートだけでなく、いくつかの他の除草剤も利用することに問題解決への希望を託す。

 この会合にオーストラリアから参加した除草剤抵抗性に関する国際専門家、西オーストラリア除草剤抵抗性イニシアティブ(WAHRI)を率いるステファン・パウルズはもっと悲観的だ。Delta Farm Pressに対し、除草剤選択のリストは縮まっている、米国の畑にはあまりに多様性がない、グリホサートに依存しすぎており、新たな化学除草剤の補給線は近々干上がると警告、解決策は農業の多様化しかないと強調する(Will herbicide resistance become the next big problem for US farmers?,Soyatech.com,2.21)。

 彼は、オーストラリア、米国、ヨーロッパで研究してきたが、米国、ヨーロッパで雑草に除草剤抵抗性が見え始めた。オーストラリアでも起きているに違いないと調べるとその通り、しかも爆発的に起きていた。いまや世界最大の除草剤抵抗性問題があると言う。

 彼はオーストラリアの100年の歴史から説き起こす。米国に入植したヨーロッパ人は西部に向かって行進、今あるような農業を発展させた。オーストラリアも同様だ。1788年にヨーロッパから入植したとき、農業は気候条件が最適な羊産業を選んだ。羊は一時、4億頭にもなった。しかし、天然の草地には羊に適した草はない。米国の草地農民同様にライグラスを植え、大陸の半分がライグラス草地になった。羊とライグラスは100年の間、王様だった。ところが1970年代、羊と羊毛の価格が下がり始め、作物、小麦が羊とライグラスに替わった。これで、広大な土地を占拠するライグラスが雑草に変わることになる。

 ライグラス退治に特効のある薬は何か。この耕作システムを可能にしたのはパラコート、10年後のグリホサートの開発だった。しかし、これらは作物も殺す。このシステムが真に働くようにしたのは、作物は殺さないで雑草を殺すHoelon (ジクロフォップ・メチル)のような選別性除草剤だった。しかし、ライグラスは遺伝的に高度に変異しやすく、花粉交雑で容易に抵抗性を発達させる。Hoelon にもすぐに抵抗性を持つようになった。しかも、多くの除草剤への多様な抵抗性も発達させた。これは、未発見の除草剤にも既に抵抗性をもつライグラスがあることを意味する。

 雑草はライグラスだけではないが、それに構っていられないほどにライグラスの問題は大きい。オーストラリアのあらゆる農場にライグラスがある。農民は学び、何とか対処しているが、相当のコストと計画化が必要だ。オーストラリア農民は補助金なしでやって行かねばならない。労賃も高く、多くの制約がある。農民はどうしているかと言えば、未だ有効なあらゆる除草剤を使う。パラコートやグリホサートは非常に重要だ。除草剤を使わない方法も考案された。作物を密植して雑草を圧倒する。除草剤だけで済まそうとすれば、そんなことはしない。一部農民は収穫機を工夫、ライグラスの種をつかまえ、焼くか、家畜の餌にする。

 これらすべては、一つの言葉:多様性にまとめられる。オーストラリアの作物栽培で間違っていたのは、また未だ間違っているのは、多様性の欠如である。米国農業も同じ間違いを犯している。ライグラスのような雑草は多様性のない状態を好む。似たようなことは世界中で起きている。米国は技術的には最先進国、オーストラリア人から教わることはないと言うだろう。しかし、オーストラリアは雑草抵抗性では世界No.1だ。米国も数年後には同じだと予測できる。ラウンドアップ・レディーは素晴らしく、魅力的だ。しかし、どんな生物学的システムも、依存しすぎれば反動が来る。

 農場ごと、畑ごとの解決策が考案されようし、ラウンドアップ・レディーに続くシステムも次々に現われるかもしれない。しかし、多様性は不十分なままだ。経済的現実が米国農民にラウンドアップ・レディーを選ばせているのだろう。グリホサートは非常に貴重な資源だ。米国農民は、次の世代もこれを使うことを望んでいる。世界中の企業が新たな除草剤の開発を競っているが、それにに替わる化学物質は、近い将来出来ないだろう。しかし、グリホサートへの依存がすぎているのは確かだ。経済的現実も重要だが、生物学的現実も重要だ。

 除草剤抵抗性は、今までのところ大規模な、工業化された農業空間(オーストラリア、米国、ブラジル、カナダ、アルゼンチン)で生じている。大面積の畑、最小限の耕起、多様性の欠如で特徴付けられる場所だ。ヨーロッパでも雑草抵抗性は見られるが、レベルは低い。ヨーロッパ人ははるかに多様な農業をもち、小規模農場で働き、多種類の作物を輪作し、耕起も慣例だ。インド、中国、タイ、その他の米生産国などの工業化が遅れた国々で抵抗性発達が見え始めている。

 除草剤耐性雑草の増加はラウンドアップ・レディーとグリホサートへの過剰依存のせいだけではない。除草剤への依存を増やす農業多様性喪失の結果でもある。しかし、GM作物は農業多様性をますます失わせるだろう(2004年、世界のGM作物商業栽培面積の72%が除草剤耐性の大豆・トウモロコシ・カノーラ・ワタで占められている⇒GM作物普及団体が栽培面積大幅増加を報告、だが栽培国・作物にはなお限界,05.1.18)。GM作物の推進者は、それが将来の農業・食料生産の安定と増大に貢献すると主張する。しかし、この意味において(も)、この出張は不確実性を免れない。