シンジェンタ社、承認品種と同時開発の非承認GMトウモロコシを気づかずに4年間も販売

農業情報研究所(WAPIC)

05.3.24

  ”ネイチャー”のニュースが22日、承認を得ていないシンジェンタ社の遺伝子組み換え(GM)トウモロコシが、同社の知らないままに過去4年にわたり流通していたと暴露した(US launches probe into sales of unapproved transgenic corn,news@nature,3.22http://www.nature.com/news/2005/050321/full/nature03570.html)。これに気づいた同社は、昨年末に米国の規制当局に間違いを報告した。この作物は安全と信じられているが、批判者は、4年にもわたって気づかれないままに販売されていた事実は、バイテク企業がどれほど注意深く自らの活動を監督しているかについて深刻な疑問を生むと言っている。

 このトウモロコシは、それが殺虫作用をもつように土壌細菌・Bacillus thuringiensis (Bt)がもつ遺伝子を組み込んだものである。シンジェンタ社は、米国その他で多年にわたり利用されてきたBt11と呼ばれるGM作物品種の販売を承認されている。これは、EUでも消費用に承認されており、栽培用に承認される最初の食用作物の一つになる可能性もある。

 ところが、シンジェンタ社は2001年から2004年まで、同時に開発中であったBt10トウモロコシを数百トン、気づかぬままに生産・販売してきた。これは、挿入遺伝子が蛋白質の毒をコードしないトウモロコシゲノムの別の位置に挿入された点だけがBt11と異なるもので、承認を受けていない。昨年末にこれが発覚して以来、米国政府科学者はBt10を調査、それが食べても安全で、環境への悪影響もないと結論したという。

 シンジェンタ社の規制問題ヘッドのジェフ・ステイン氏は、「これが独特なのは、Bt10Bt11が物理的に同一で、蛋白質が同一であることだ」と言う。また、ワシントンDCの会社のスポークスウーマンであるサラ・フル氏は、同社は発見後すぐに規制当局に誤りを報告した、これはシステムがあるべきように機能していることを示すと言い、別の会社幹部職員は、放出されたのは比較的小量、作物は4年間で150平方キロメートルほどで栽培されただけで、この期間に米国で栽培されたすべてのトウモロコシの0.01%にすぎないと指摘する。Btトウモロコシの種子は前年の収穫から集められるのではなく、毎年買われるから、問題をエスカレートすべきではないと言う。

 しかし、ワシントンDCのシンクタンク・”食料及びバイオテクノロジーに関するポー・イニシアティブ”のディレクターであるミカエル・ロードメイヤー氏は、この放出は米国食料供給におけるGM製品の完璧な監視システムの欠如を反映していると批判する。彼は、「これは、適切な監督がなされれているかどうかを巡る米国食料を輸入する国々の心に疑問を生じさせる。それはGM食品の批判者に弾薬を提供し、また国々が非GM品種を求める刺激要因にもなる」と言う。

 シンジェンタ社は、育種実験でBt11トウモロコシ種子を利用しようとしていたその種子メーカーの一つが、種子が違うと伝えたときに誤りを発見した(ワシントン・ポスト紙は、「フィールドの観察に頼る代わりに製品のDNAを精査する品質コントロール・プログラムの最近の改変の後にのみ問題が発見された」と書いている⇒Syngenta Says It Sold Wrong Biotech Corn,The Washington Post,3.23)。そのとき、GM作物承認に共同責任を負う環境保護庁(EPA)、食品医薬局(FDA)、米国農務省(USDA)に報告した。以来、規制当局と会社は、この間違いについて何をすべきか、国民にどう、いつ伝えるべきか、数ヵ月議論してきたという。米国とEUがGM作物の流れをトレースする厳しいEUのルールが科学的に必要かどうかを巡る先鋭な貿易紛争の最中にあるために、この微妙な議論にはホワイト・ハウスもかかわった。シンジェンタ社は、そうとは知らずにBt10 種子を受け取った国々のリストを明らかにしなかった。ワシントン・ポスト紙によると、シンジェンタ社はUSDAから50万ドル(約5000万円強)の罰金を科される可能性がある。

 また、同紙は、ネイチャーのニュースが出た直後に行われた記者会見で、ジェフ・ステイン氏は、誤りが起きた経緯について、1996年にBt11の承認を得たのちにもさらなる研究のために保存されていたBt10が五つの生産ラインに入れられたと説明したことを報じている。似たような多種の薬を扱う病院が間違った薬を出すのと同類のミスだ。それがなかなか改まらない現実を考えると、ステイン氏はBt10は二度を売られることはないと言ったというが、信じていいものかどうか分からない。

 公益科学センター理事のグレグ・ジャフ氏は、「この状況の影響は、米国、そして多分ヨーロッパでも尾を引くだろう。ヨーロッパの消費者はGM食品の採用にクールだった」、「産業は国際的信用を築くどころか、自分の足を撃ち続けている」と言う。