シンジェンタ社販売の未承認GMトウモロコシ 抗生物質耐性遺伝子を含むの報

農業情報研究所(WAPIC)

05.3.31

 シンジェンタ社の安全性未確認の遺伝子組み換え(GM)トウモロコシ(Bt10)が米国で栽培され、流通していた問題で、わが国農水省と厚労省は、このトウモロコシは飼料・食品安全上の問題はない考えられると発表している。

 農水省は、「@Bt10は安全性が確認されているBt11と同一のたん白質を生産し、毒素やアレルギー物質を含まないというEPA[米国環境保護庁]の判断があること、A我が国で同様のたん白質を発現する遺伝子組み換え飼料を家畜に給与した試験において、挿入遺伝子及び発現たん白質が家畜及び畜産物に移行した事実は認められていないこと、BBt10の作付面積は米国でのトウモロコシ作付面積に占める割合は0.01%程度と非常に低いレベルであること、から、Bt10が日本に輸入された可能性は低く、仮に輸入されていたとしても、家畜及び畜産物の安全性に問題は生じないものと考えられる」と言う(米国における安全性未確認の遺伝子組換えトウモロコシの栽培について ,3.23)。

 厚労省も、「米国政府においては、シンジェンタ社から提出されたトウモロコシBt10の挿入遺伝子配列情報、Btタンパク質発現量情報などをもとに、農務省動植物衛生検査部(APHIS)、保健省食品薬品局(FDA)、環境庁(EPA)が安全性評価を行っています。その結果、トウモロコシBt10において発現するBtタンパク質がトウモロコシBt11で発現するタンパク質と同じであることに加え、重要な自然毒、アレルゲンを含まないことから、トウモロコシBt10の安全性に問題はないとしています」、「米国政府の評価によれば、トウモロコシBt10を食用としても安全性に問題はないとしており、栽培されたトウモロコシやその製品の回収は行われていません。このため、仮に摂取したとしても、食品安全上の問題はないと考えられています」と、基本的には米国政府の評価を丸呑みにして食品安全上の問題はなかろうという判断を下している(米国における安全性未審査の遺伝子組換えトウモロコシ種子の流通事例について,3.23)。

 ただ、農水省は、「Bt10に対する検査の準備が整い次第、飼料の輸入時に検査を行うとともに、米国大使館及びシンジェンタ社に対し、Bt10に関する安全性情報の提供を求めるほか、安全性確認を受けるように指導することにしている」、厚労省は、「、(1)トウモロコシBt10に対する検査の準備ができ次第、輸入時検査を行い、トウモロコシBt10が混入していることが判明した場合には、食品衛生法に違反するものとして積戻し等の措置を行います。(2)また、米国に対しては、我が国に輸出されるトウモロコシにBt10が混入しないよう対応を要請するとともに、(3)シンジェンタジャパン社にはトウモロコシBt10の安全性を確認するために必要な資料を提出するよう要請しています」と、今後の対応を約束している。この対応がどこまで進んでいるかについては報告はないが、こんな情報は知っているのだろうか。

 ”Nature”誌のニュース(Stray seeds had antibiotic-resistance geneshttp://www.nature.com/news/2005/050328/full/434548a.html )が29日、Bt10は抗生物質耐性遺伝子を持っており、改めて安全性への懸念を掻き立てると報じた。B10は抗生物質の一族であるアンピシリンに耐性を与える遺伝子を含む。シンジェンタ社もこの事実を認めたという。農水省と厚労省はシンジェンタ社からこの情報を得ているのであろうか。また、もしこれが事実だとすれば、どう対応するのだろうか。

 遺伝子組み換えの過程では、組み換えが成功したものを選別するための目印(マーカー)として抗生物質耐性遺伝子が使われることが多かったし、今でも使われている。組み換えが成功したものは抗生物質耐性遺伝子も持っているから、抗生物質の液にさらして生き残ったものとして選び出せる。しかし、抗生物質耐性遺伝子が作物からバクテリアに移行、人間と動物に抗生物質耐性(抗生物質が効かなくなること)が広がる恐れがある。このことから、国連食糧農業機関(FAO)や英国のロイヤル・ソサイエティー、フランスのパスツール研究所などの著名な団体もこの問題への懸念を表明してきた。

 欧州食品安全庁(EFSA)も、昨年4月に発表した意見(Opinion adopted by the GMO Panel on 2 April 2004http://www.efsa.eu.int/science/gmo/gmo_opinions/384_en.html、参照:欧州食品安全庁、GM植物における抗生物質抵抗性マーカー遺伝子利用について意見,04.4.21)で、抗生物質耐性マーカー遺伝子を、それが利用されたGMOの実験も販売も許されるもの、実験は許されるが販売は許されないもの、実験も販売も許されないものに分類した。Bt10に含まれるとされるアンピシリン耐性遺伝子を利用したものは、クロラムフェニコール・ストレプトマイシン・スペクチノマイシン耐性遺伝子を利用したものとともに、販売用の利用は許されず、実験にのみ利用できるとされたものである。