EU、Bt10トウモロコシ問題で米国からのコーン・グルテン等の事実上の輸入停止を決定

農業情報研究所(WAPIC)

05.4.17

 EUの食品チェーン・動物保健常設委員会が15日、米国からの輸入される飼料―コーン・グルテンとエタノール生産の副産物である絞り滓―に未承認遺伝子組み換え(GM)トウモロコシ・Bt10が含まれないことの証明を要求する欧州委員会提案を承認した(Euroepan Commission:Bt10: Commission requires certification of US exports to stop unauthorised GMO entering the EU)。Bt10の検出手段がない今、輸入品にBt10が含まれるとすればこれらトウモロコシ由来製品に含まれる可能性が高いと判断した。これら製品の輸入の全面禁止ではないが、シンジェンタ社によりBt10の有効な検出手段が提供されないかぎり、事実上の輸入禁止につながる措置である。

 この常設委員会はEU各国と欧州委員会の代表者で構成される規制委員会であり、これが欧州委員会提案を了承すれば、欧州委員会は閣僚理事会の承認を経ることなく、提案措置を実行に移すことができる。決定が成文化される今週初めにもこの措置が発効、欧州委員会が見直す今年10月末まで続けられる。

 今後、これら製品をEU市場で販売するときには、Bt10を含まないことを適当で有効な方法で証明する承認された試験所による分析報告を添付せねばならない。また、EU諸国は、各国に入る輸入品を管理、汚染貨物が市場に出されることを防止し、既に市場に出た製品の無作為サンプル採取と分析を実施する責任を負う。さらに、米国から飼料を輸入する事業者は、事業者は販売される食品または飼料の安全に責任を負うというEU食品法の原則に従い、Bt10が含まれないことを保証することに責任を負う。

 ただし、米国当局と欧州食品産業からの現在の情報によると、EUの食品は汚染されておらず、従って現段階では今回の緊急措置の対象から除かれる。しかし、EU各国は、GM食品が市場に出ていないかどうか、それがBt10に汚染されていないかどうかを監視、欧州委員会に報告することを義務付けられる。欧州委員会は状況を積極的に監視、証拠によって必要性が示されれば、食品に関する追加措置を考えるという。

 英国の食品基準庁(FSA)は15日、検査できるようになるまで、これらのすべての輸入品を保管するように指示した。その発表によると、英国の食品生産者は、引き続き非GM原料を利用しており、従ってBt10が英国で販売される食料製品中に存在しないと知らせてきた。FSAは引き続き状況を監視、有効な検査方法が提供され次第、製品を検査する行動を取るという(Agency takes action on unauthorised GM imports)。

 ワシントン・ポストがAPの情報として伝えるところによると(E.U. Votes Ban on U.S. Corn Gluten,The Washington Post.4.16)、シンジェンタ社のミカエル・マック営業主任は、Bt10を検出する有効な検査方法をすぐに提供するけれども、EU当局による承認を得る必要があり、この承認にどれほどの時間かかるかは分からないと言う。

 他方、米国のEU使節団のスポークスマンであるエドワード・ケンプ氏は、Bt10のあり得る低レベルの存在のために米国コーン・グルテンに証明義務を課すEUの決定は過剰反応で、「米国当局は、Bt10に関連した健康、安全性、環境への危険はないと決定した。EUに入ったかもしれない小量のBt10からの否定的影響を予想する理由はない」と語ったという。

 環境保護団体の地球の友のスポークスマンは、「ヨーロッパは多くの米国の動物飼料の輸入を事実上禁止した」とEUの動きを歓迎している。しか、グリーンピースは、未承認のバイテク製品の一層の輸入を防ぐためには一層厳格なコントロールが必要、「ヨーロッパは現在、人間の健康と環境に有害と疑われるGMOによる汚染から自身を護る手立てを持たない」。「EUが米国その他で放出されるすべてのGMO輸入品を検査する手段を持たない以上、汚染のリスクがあるいかなる食品、飼料、種子もEUに入ってはならない」と言う。

 グリーンピースにはなお不満の残る決定とはいえ、航空機補助金、ダンピング問題、EUのGMO新規承認モラトリアム問題などめぐる貿易紛争で冷え込み、早期決着を目指すWTO交渉への注力さえ妨げている米欧関係に、またも火種が生じたことは否定できない。マルコス・キプリアヌEU保健・消費者保護担当委員は今日から21日まで、肥満・感染症蔓延問題を協議するために訪米するが、Bt10で持ち上がったGMOの問題についても論議するという(Commissioner Kyprianou visits USA to discuss obesity, pandemic preparedness and GMOs)。だが、米国が従来の態度を貫くかぎり、この問題での早期和解もありそうにない。