フランス下院委員会、GMO実験・利用に関する報告書 今年の屋外実験停止を要求

農業情報研究所(WAPIC)

05.4.17

 4月14日、フランス国民議会(議会下院)の遺伝子組み換え体(GMO)の実験と利用に関する調査委員会が、2005年の実験の停止などを要求する報告書を発表した。これはGMOに関する立法につながるもので、今後のフランスのGMO政策に大きく影響すると見られる。この委員会の設置は昨年10月5日に国民議会議長が提案したもので、少し遅れて10月21日、シラク大統領が、研究のための「明確な枠組みを定めるためにはGMOに関する立法が必要、「先験的にでなく、客観的、理性的にこの問題に接近せねばならない」と告げていた。

 激しい論争の末、当面の実験の停止が勧告されることになったとはいえ、報告の基調は農業バイテク推進である。とりわけ、有機農業産品については、GM表示が義務付けられないGMO含有率上限の0.9%までの含有を認めた。有機団体の検出限界(0.1%)以下という主張を退けるもので、有機団体は有機農業・製品への消費者の信頼が失われ、有機農業の存立を脅かすと猛反発している。GMOによる偶然の汚染の場合の損害補償は、非GM作物が「法的上限」を超えてGM植物に汚染された場合に限られ(09%までの汚染では有機農業者への補償はない)、しかも補償財源はGM作物関連業界だけでなく、国家(すなわち納税者)からも調達するとしており、専らバイテク企業・GM農業を優遇するものだとの批判も招いている。

 報告の主要な提案は次のとおりである。

 GMOの許可

 ・GMOの評価と監視をのための既存の遺伝子工学委員会、生物分子工学委員会、生物警戒委員会の3組織を融合、リスク評価を担当する科学部会、基本的には市民社会の代表で構成され、これらのリスクと期待される経済的・社会的便益の比較を担当する部会で構成される「バイオテクノロジー評議会」の設立。

 ・そのメンバーの独立性の確保(最小の報酬、報酬の出所や民間企業プロジェクトへの参加の開示)。

 ・GMOの環境影響を含まずに申請されたいかなる実験も許可しない。

 作物の共存

 ・欧州委員会にGM作物と非GM作物の共存規則を定める指令の制定を要求する。

 ・有機農業食品におけるGMO存在の上限を0.9%に拡大。

 ・GMOと同種の作物の非GM作物の栽培区域での「緩衝区域」の義務付け。

 ・偶然の摂取も考慮に入れた薬品用GM植物の規制の強化。

 補償

 ・非GM作物に法的限界を超えるGMOが存在する場合に、GM植物生産者の主張に反してその瑕疵を推認する制度の制定。

 ・国家とGM関連業界から資金を調達する補償基金の設置。

 情報と協議

 ・屋外実験の市町村による掲示。

 ・バイオテクノロジー評議会市民部会の意見と科学部会の作業の結果のインターネットでの公表。

 ・人間の健康に影響がある製品のリストに掲げられているかぎりの利用農薬の食品表示への記述。

 ・GMOを消費した動物に由来する肉や製品の表示は免除。

 ・GMO実験プロジェクトに関係する市町村は国の出先機関による情報の維持を提案することを考えるべきである。

 ・地方住民の柔軟な協議手続を定める。

 環境リスク

 ・害虫防除のためのGMOを利用するすべての経営のおいて、GMO面積の25%の非GM品種避難地を設ける(害虫の抵抗性発達を防ぐため)。

 ・害虫防除用のGM植物の実験及び栽培区域で、生物監視を継続する。 

 委員会の最大関心事は、ますます激化する反対・破壊活動によるGMO実験の閉塞状況を打開することにあった。上のすべては、実験をスムーズに進めるために考えられた措置である。委員会を圧倒的に支配したのは、屋外実験推進の立場であった。しかし、これでは逆効果を生むことになる。議論の最終段階でバランスを取り、2005年の実験停止の要求を認める妥協策が取られた。これにより、消費者団体や環境団体が実験をケース・バイ・ケースで評価し、フランスで行なわれた実験の総括を行なう枠組みができた。

 報告は、「将来のバイオテクノロジー評議会がすべての屋外実験の評価に着手できないかぎり、いかなる新たなGM種子も種子カタログに登録され、商業栽培の対象となってはならない」と書く。厳格な条件で実験を許す一歩一歩の前進の戦略が最終的に採択されたわけだ。

 しかし、前記のように、有機団体は有機農業の閉塞を招くと強く反発している。他方、種子業界は2005年の実験停止の要求に悲憤慷慨しているという声明を出した。法案提出に先立ち対立を和らげるようとした委員会も、却って対立を煽ることになったのかもしれない。