モンサントのGMトウモロコシ・MON 863、健康悪影響を示唆する秘密研究が露見

農業情報研究所(WAPIC)

05.5.26

 今月19日、モンサントの害虫抵抗性遺伝子組み換え(GM)トウモロコシ・MON 863に由来する食品・食品成分の販売の許可を求める欧州委員会の提案の可否を決めるためのEU規制委員会(食品チェーン・動物衛生に関する常設委員会・GM食品・飼料及び環境リスク部会)の会合が開かれた。この委員会はEU各国の代表者で構成され、ここで承認されれば、販売が最終的に許可されることになる。しかし、「モラトリアム」解除後に承認を求められた他のすべてのGM製品と同様、議論はデッドロックに乗り上げた。欧州委員会は、コンセンサスを欠くなか、またもや職権に基づく許可に追い込まれそうだ。

 MON 863については、欧州食品安全庁(EFSA)が4月20日、既に人間・動物の健康と環境への悪影響はないとする意見を発表している(http://www.efsa.eu.int/press_room/press_release/385_en.html)。しかし、これに対する疑念は一向に払拭される様子がないどころか、ますます深まっている。5月22日の英国・インディペンデント(サンデー・インディペンデント)紙は、このトウモロコシに関するモンサントの秘密研究の存在を暴露した(Revealed: health fears over secret study into GM food;http://news.independent.co.uk/world/science_technology/story.jsp?story=640430,When fed to rats it affected their kidneys and blood counts. So what might it do to humans? We think you should be told;http://news.independent.co.uk/world/science_technology/story.jsp?story=640402)。論争は、パズタイ博士が害虫抵抗性GMジャガイモを食べさせたラットの免疫力低下や発育阻害、胃の内壁や小腸の異常を報告(1999年)、GM食品に対する恐怖が一気に爆発した時代に逆戻りするかもしれない。

 過去6年間にわたりインディペンデント紙のGM技術に関するキャンペーンをリードしてきたジェフリ・リーンによる記事は次のように書く。

 1139ページに及ぶモンサントの秘密研究によると、MON 863を食べさせられたラットの腎臓は小さく、血液成分にも変化があった。この情報は、英国も含むEU諸国がMON 863の販売を認めるか否かに関する投票を準備するなかで明るみに出た。先週の投票は、英国と9ヵ国が賛成しただけで、承認に失敗した。この情報開示が、さらなる研究なしでこのトウモロコシを食べることが安全かどうかをめぐる争いを一層激化させた。ドクターたちは、血液の変化は免疫システムが損傷されるか、腫瘍のような疾患が起きて免疫システムがそれとの闘いに動員されていることを示唆する可能性があると言っている。

 リバプール大学の人間解剖学・細胞生物学上級講師のV・ハワード博士は研究全体の公表を要請、ガイズ病院医学スクールのM・アントニゥ博士は、この発見は医学的見地から非常に心配と言う。モンサントは、この結果は意味がない、偶然に起きたラット間の正常な変異を反映するものと問題にしないが、環境運動家は、パズタイ博士の実験の正当性を一部は証明する可能性があると主張するだろう。今や、このトウモロコシが英国で販売されることを許す決定は[GM食品に対する]恐怖を広げるだろう。「公衆衛生に対してあり得る意味合いは別としても、もし確かであると分かればGM食品が承認されるシステムへの挑戦となり得るから、研究データ―パズタイ博士の実験と同様な―は重要である」。

 しかし、モンサントは、企業機密が含まれるからと、研究の詳細が含まれるメイン・レポートの公表を拒んでいるという。 

 この記事に触発されての取材だろう。23日付のAFPの報道は、EFSAのリーダーであるイタリアのジョルジョ・カラブレーゼ教授が、「モンサントは即時、MON 863に関する研究全体をEFSAに提出せねばならない」と語ったと報じる。教授は、「この多国籍企業は、EFSAのためにGMOに関して研究する科学者に自身の結論を提供したように見える」、「ヨーロッパの研究者は、自身でテストし、モンサントが提出したのとは異なる結果を発見した」、「研究者全員に一致が見られるわけではないが、これは5月19日に規制委員会が承認を阻止した理由だ」と明かす(EU demands Monsanto's test results on controversial corn,AFP via Yahoo!,5.23;http://story.news.yahoo.com/news?tmpl=story&cid=1540&ncid=1540&e=1&u=/afp/20050523/sc_afp/italyfoodbiotechgmomonsanto_050523171124)。

 そいて、「MON 863は他の二つの品種のハイブリッドだ。二つのトウモロコシについては知っているが、これらをミックスした結果については知らない。これはMON 863がネガティブなものであることは意味しないが、当面、それがポジティブであるとも分かっていない」と結論する。

 イタリアはGMトウモロコシの利用を禁止、この問題に関して20州で賛否を問うている。この投票は年末までまで続くが、今までに14州がGMトウモロコシに反対の投票をしたという。

 わが国厚労省は、このトウモロコシの食品としての利用を既に認可している。食品としての安全性を「実質同等の原則」に基づいて審査、「人の健康を損なうおそれがあると認められないと判断」した結果である(組換えDNA技術応用食品及び添加物の安全性審査に関する部会報告書:平成13年1217日;http://www.mhlw.go.jp/shingi/0112/s1217-4.html)。こんな秘密研究の存在が明らかになった以上、再審査の必要はないのだろうか。今回露見した事実は、開発企業が提出する情報・データのみによる安全性審査がいかに危険であるかを物語っている。リーン氏が言うように、これは、「GM食品が承認されるシステムへの挑戦」となるかもしれない。

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