FAO 研究と応用が進むGM樹木の体系的環境リスク評価を要請

農業情報研究所

05.5.15

 国連食糧農業機関(FAO)が13日、林業におけるバイオテクノロジーが急速に進展する状況を伝えるとともに、遺伝子組み換え(GM)樹木のシステマチックな評価を要請した。とりわけ中国ではGMポプラが商業用に植栽されるに至っており、国・国際レベルで合意されたプロトコールと方法による環境リスク評価が重要と言う。(Biotechnology in forestry gaining ground,7.13;http://www.fao.org/newsroom/en/news/2005/104906/index.html)。

 発表によると、林業におけるバイオテクノロジーの研究と応用が急速に進んでいる。FAOが実施した林業バイオテクノロジーの新たな世界規模の研究によると、林業バイオテクノロジー活動の大部分、70%は先進国で行われており、特に米国・フランス・カナダにおける活動が最も盛んである。また、途上国・市場経済移行国のなかではインドと中国での活動が一番活発という。

 この活動は少なくとも140の樹種に広がっているが、大多数(60%)はマツ(Pinus)、ユーカリ(Eucalyptus)、トウヒ(Picea)、ポプラ(Populus)、ブナ(Quercus)、アカシア(Acacia)の6樹種に焦点を当てている。

 GM活動に関しては、過去10年に世界で報告された2700以上の林業バイオテクノロジー活動のなかの19%を占めるだけである。林業GM活動は少なくとも35ヵ国で行われており、大多数は、外見上では実験室に限定されており、一部は野外実地試験を伴っている。210のGM樹木野外実地試験が16ヵ国で進行中である。その大部分は米国で行われており、樹種は、主としてポプラ、マツ、フウ(Liquidambar)、ユーカリに限定されている。GM樹木の商業的植栽が報告されているのは中国だけで、02年に300−500haに140万本が植栽された。

 FAOの森林遺伝資源専門家のピエール・シゴー(Pierre Sigaud,)氏は、GMは本来的に良いとも悪いとも言えず、「GM森林樹木の研究と応用をケース・バイ・ケースで律する規制の枠組みが不可欠。花粉と種子の分散は国境などお構いなしだし、木材は世界商品だから、問題は国のレベルを超える」と言う。

 
 FAOは、GM樹木が木材生産増加、材質改善、病害虫・除草剤抵抗性などの利益を生むかもしれず、木材またはチップの生産・加工コストやパルプ製造のための財政・環境コストの削減もありうるが、リスクもあると警告する。リスク要因としては、改変遺伝子の不安定性、植栽失敗、貧弱な材質、害虫または病原生物の改善された形質への耐性の発達、自然生態系への改変遺伝子の逸出などがありうる。

 FAOの研究は、「中国ではGMポプラが既に商業栽培段階に入っていることを考えると、国及び国際レベルで合意されたプロトコールと方法で実施される環境リスク評価研究が非常に重要である。このような研究の結果が広く利用できるようにすることも重要である」と述べているという。

 先のシゴー氏は、「世界貿易における森林生産物の経済価値は農産物よりずっと小さく、林業におけるバイオテクノロジーの利用の経済的合理性は明確には証明されていない。信頼できる情報がないために、GM森林のありうる影響に関して結論に達するのは未だ不可能だ」と言う。また、世界の森林の95%ほどは天然林か半天然林だから、GM樹木の植栽は比較的限定されることになりそうだとも語っている。