バクテリア由来抗生物質耐性マーカー遺伝子を使わないGM作物開発ー米国研究者が代替法考案

農業情報研究所

05.8.23

 米国研究者が遺伝子組み換え(GM)作物を作り出す過程で利用されているバクテリア由来の抗生物質耐性マーカー遺伝子を植物由来の遺伝子に置き換える新たなGM作物作出方法の可能性を示した。この新たな植物由来遺伝子が人間の健康に悪影響をもたらさないことが確認されれば、GM食品の安全性に対する懸念を大きく取り払うことにつながるだろうという。テネシー大学のNeal Stewart Ayalew Mentewabが開発したこの方法は、”Nature Biotechnology”誌での公刊に先立ち、8月21日のオンライン記事(*)で発表された。

 現在の大部分のGM作物は、除草剤耐性、害虫抵抗性など目的とする作物形質を付与する外来遺伝子とともに、これら形質とは無関係な外来”マーカー遺伝子”を含む。遺伝子組み換えの過程において外来遺伝子が植物にうまく組み込まれるとはかぎらない。むしろ組み込みに失敗するほうが多い。組み換えが成功した植物と成功しなかった植物を区別し、成功した植物を選び出すために組み込まれるのがマーカー遺伝子である。

 このマーカー遺伝子として一般的に使われてきたのがバクテリア由来の抗生物質耐性遺伝子だ(典型的にはEscherichia coli E. coliと呼ばれるバクテリア由来の遺伝子)。作り出された植物を抗生物質に曝す。組み換えが成功した植物は抗生物質に耐性をもつから生き残り、外来遺伝子の組み込みに失敗した植物は抗生物質耐性遺伝子をもたないから死んでしまう。Stewart教授によると、2000年から2002年に遡れば、科学文献で報告されたすべてのGM植物の60%から70%が抗生物質・カナマイシンに耐性のマーカー遺伝子を使っているという(Scientists hope to ease GM fears,BBC News,8.22;http://news.bbc.co.uk/2/low/science/nature/4167040.stm)。

 しかし、一部科学者を含む多くの人々は、抗生物質耐性の遺伝暗号が、遺伝子水平移転と言われる過程を経て、GM食品から人の消化管内のバクテリアに飛び移り、このバクテリアを抗生物質が効かないものに変えることを恐れてきた。それは、人間の健康にとっての脅威となる。一部開発企業は、GM種子の販売前に抗生物質耐性遺伝子を除去する手段を取っているが、これもうまくいくとは限らない。

 そこで、この二人の研究者は、E. coli遺伝子の代わりに、やはり抗生物質耐性を与える雑草・シロイヌナズナのAtwbc19と呼ばれる遺伝子をマーカー遺伝子として使うことを考えたのだという。この遺伝子とそれを取り込んだ植物が容易に識別できる青色色素の遺伝暗号を指定する別の遺伝子を含むDNAの断片を設計した。Atwbc19遺伝子はバクテリア由来の抗生物質耐性遺伝子の3倍の大きさをもつ。遺伝子が大きく、またそれが植物由来のものであることから、それが微生物に飛び移る可能性は小さくなるだろうという。

 シロイヌナズナの遺伝子が機能するかどうかを確かめるために、これら遺伝子をタバコに組み込んだ。シロイヌナズナの遺伝子をもつタバコの苗は、抗生物質に曝しても成長を続けた。

 カリフォルニア大学デービス校の微生物学者・Michael Syvanenは、植物遺伝子はバクテリアによっては発現できないから、この研究はGM作物への恐怖を鎮めることができると語ったという。(Replacement found for bacterial DNA in transgenic crops,news@nature,8.21;http://www.nature.com/news/2005/050815/full/050815-13.html)。

 しかし、先のBBC Newsによると、”地球の友”の反GM活動家のClare Oxborrowは、現在市販されているGM製品は抗生物質耐性マーカー遺伝子を含んでおり、この研究は現在のGM製品承認の過程においては重要性をもたないと言うだけでなく、挿入される遺伝子の働きは明らかになっていないから他のどこかで植物に何をするかわからない、食品安全評価当局が要求するような真面目な調査があったようには見えないと指摘している。

 これは研究者自身が認めるところだ。先のnews@natureによると、Stewart教授自身が一層の試験が必要、例えば、雑草遺伝子から作られる蛋白質が人間に悪影響をもたないことを証明しなければならないと語っている。

  *Mentewab A. & Stewart C. Nature Biotech.,Overexpression of an Arabidopsis thaliana ABC transporter confers kanamycin resistance to transgenic plants,Advanced Online Publication. doi: 10.1038/nbt1134 (2005),Abstract | Full text |PDF (257K)  | Supplementary Information.