Btワタの有効性をめぐるインドの論争ー研究者とNGOの抗争

農業情報研究所

05.9.5

  先日、遺伝子組み換え(GM)食品導入をめぐるガーナの論争を紹介したが、今度は害虫抵抗性GMワタ(Btワタ)をめぐるインドでの激しい論争を紹介したい。8月初めに「インド・マハラシュトラ州・ナグプールに本拠を置く中央綿研究所(CICR)の研究チームが、遺伝子組み換え(GM)Btワタが播種110日後、ワタキバガ (bollworm)に対して無効になることを一連の研究により証明した」ことを伝えたが、この問題をめぐる論争である。

 8月29日付けのThe Hindu紙で、遺伝子キャンペーンのスーマン・サハイ博士は、CICRの科学者による新たな報告がモンサントのインド関連会社・MahycoのBtワタ品種失敗の科学的理由を明らかにした、農民に関する国家委員会は、このBtワタが畑から撤去され、この技術がインドの害虫と農業条件に適切なものにされるまで、そのさらなる栽培のモラトリアムを敷くように勧告せねばならない、またMahyco-Monsantoは、農民が蒙った損害を補償せねばならないと論じた(The science of Bt cotton failure in India,The Hindu,8.29;http://www.hindu.com/2005/08/29/stories/2005082906321100.htm)。

 ところが、本日(9月5日)付けの同紙で、CICRの上級研究者であるK.R. クランティ氏がこれに反論している。彼は、報告はこのBtワタの一定の欠陥を認めたが、これはGM技術の無効性の証拠を示すものではなく、この研究は技術の改善のためにその長所と短所を評価したもの、そこで示された欠陥にもかかわらず、Btワタは依然としてインドで最も有効な害虫防除策を提供しており、さらなる改善も可能と言う(Is Bt cotton unsuitable?,TheHindu,9.5;http://www.hindu.com/2005/09/05/stories/2005090505731100.htm)。

 両者の言い分を聞いてみよう。

 サハイ博士:インドにおけるBtワタ失敗の科

 CICRの研究は、遺伝子キャンペーンやグリーンピース、持続可能な農業センターなどが行った主要な発見を確証するものだ。これらの発見とは、農薬節約はインドでは十分でない、Btワタが提供する保護は植物のライフサイクルの一部で持続するにすぎない、ワタキバガ (Helicoverpa armigera) は、Bt毒の発現が経済的に最も重要な植物部位で有効なレベルに達しないために綿花の鞘を攻撃するといったことだ。

 研究は、Btワタは、国のこの主要ワタ害虫がBtワタのCry1Ac毒の作用に感じやすくないために、インドでは有効でないことを示す。Cry1Acは、米国のワタに被害をもたらす主要害虫であるタバコガ (Heliothis virescens)に対して作用する。米国のBtワタ品種はタバコガの99%から100%を殺す。従って、米国では成功している。

 CICRの研究は、インドのBtワタの貧弱なパフォーマンスは、それがただ一つのBt遺伝子のコピーを含むハイブリッドとして生産されるためであることも示唆している。中国、オーストラリア、南アフリカなどの国で生産されるストレート品種は、Bt遺伝子の二つのコピーを含む。Btワタの世界的分析は、それがハイブリッドよりも有効に働くことを示している。

 インドの規制官は、高価で、農民に新たな栽培期ごとに種子購入を強制するハイブリッドBtワタを促進する理由を説明せなばならない。遺伝子操作承認委員会(GEAC)は、パフォーマンスがより優れ、農民の費用も安くつくのだから、ストレート品種だけがインドで許されると何故決定しないのか。

 インドのBt技術の欠陥に関する情報は、アンドラ・プラデーシュ州政府を含む多くの機関が広範な失敗を報告した2003年末に、ICARに利用可能であった。ICAR事務局長は、GEACのメンバーであるが、ICARがCry1Acに基づくBt技術がインドでは成功しない、Btワタは技術が改善されるまで差し控えるべきだと定めた明白な科学的証拠をめぐる彼の見解を示さなかった。その代わりに、GEACは、インドの他の多くの州について、技術失敗のいかなる精査も行うことなく、Btワタ品種の許可を続けてきた。

 その偏向した決定は、特に天水に頼る地域の貧しい農民を衰弱させる損害を招いている。GEACのメンバーは、ときに農民を極端な行動に走らせた損害に責任を取らねばならない。政府は収穫失敗の報告にも動かず、インドにおけるBtワタのパフォーマンスの完全な審査の要求にも鈍感なままだ。その販売を許すことで、農民を害し続けている。

 遺伝子キャンペーンは、今や、GMOを規制するための環境保護法違反取り締まり委員会に提訴することを環境森林省に通知した。GEAC はCICRの研究と使用されているBt技術の無効性を完全に知っている。しかし、Mahyco-Monsantoの品種の承認取り消しに動かず、他の数種のBtワタ品種の栽培承認を与え続けている。

 農民に関する国家委員会は、このBtワタが畑から撤去され、この技術がインドの害虫と農業条件に適切なものにされるまで、そのさらなる栽培のモラトリアムを敷くように勧告せねばならない、またMahyco-Monsantoは、農民が蒙った損害を補償せねばならない。また、Btワタは、インドでは、中国、オーストラリア、南アフリカの場合と同様に、産業がここで押し付けているハイブリッドとしてではなく、ストレート品種の形でのみ許されねばならない。

 クランティ氏:Btワタは不適当か?

 サハイ氏は、我々の論文がインドにおけるモンサントのBtワタの失敗の科学的理由を示したと書いた。しかし、我々の研究は彼女の論拠を支持するものではない。

 我々の報告は、彼女が世界に信じさせようとしているように、この技術が有効でないとか、欠陥があると言う証拠を提供していない。それは、技術がシーズンの大部分を通じて有効に働くが、少しばかりの特有の弱点があることも示している。これは技術のメリットを取り去るものではない。このペーパーで述べられた欠陥にもかかわらず、Btワタはインドのワタキバガ防除のための最も有力で、最善の選択肢である。現在利用できる最善の殺虫剤でさえ、現場の条件でワタキバガ幼虫の70-80%を殺すだけだ。Bt技術は、それよりも一層有効と考えられる。

 生物安全性は通常の殺虫剤と比べものにならない。農民がBtワタを求めるのは、害虫防除に有効なだけでなく、ワタ栽培が容易になり、散布する殺虫剤が減ることで一層健康的でもあるからだ。GEACは慎重すぎるほど慎重に許可してきたし、承認は、毒発現のマイナーな欠陥にもかかわらず、我々の高収量と生態的利益を常に示す3年間の科学的現場実験の評価データに基づくものであった。私は専門 家としてGEACのいくつかの会合に出席してきたが、我々のデータがインド農民に有害なものだったとしたら、これを指摘しなかったはずがない。Btワタは、2002年の導入以来 、多数の農民により支持されてきた。それは大きな人気と技術採用率に見られるとおりだ。

 確かに、我々のペーパーはCry1Ac毒のレベルの季節的低下と、いくつかのBtハイブリッド種の様々な植物部位における変異を記述している。また、「鞘‐外皮、花芽、子房での毒の発現は、結実部位の完全な保護を提供するには明らかに不適切であった」とも書いた。興味あることに、ほぼ同時期に発表された中国とオーストラリアの二つのペーパー(Journal of Economic Entomology)は、 Cry1Ac 毒のレベルの季節的低下と胚珠及び鞘における低レベルを指摘する同様なデータを記している。これは、Btワタがワタキバガに有効でないことを示すのか。そうではない。

 我々は、「毒発現の変異にもかかわらず、害虫防除の形質は、少なくとも作物が110−115日になるまでは、大きく影響されることはありそうもない。一部の幼虫は試験管内バイオアセイで様々な植物部位で生き残ったとはいえ、すべての部位で生き残った幼虫は、非Btワタで生き残った幼虫に比べ、体重が48.8%から98%減っていた」とはっきり書いた。ワタキバガ幼虫は、一般に、播種後60−120日、ワタを食害する。Btワタは播種後60−115日は非常に有効で、損害を引き起こすチャンスは残りの1−2週間の間にある。我々は、ワタキバガの卵の大部分(70−80%)は上部の葉に産み付けられ、孵化後すぐに葉の表面を食べ、死ぬ。花や結実部に直接産み付けられた卵は、毒の発現に応じて生き残る可能性がある。全体的分析では、Btワタは、少なくとも食害の70−80%を防ぐ。これは経済的・環境的に非常に重要だ。

 我々は、中国やオーストtラリアにおけるBtワタ品種の比較的高い有効性は、ストレート品種の利用のためではないかと考えた。しかし、最近の両国のデータはこれを支持しない。それでも、ストレート品種では、鞘の中のすべての種子でCry1Acが発現するのに、インドのハイブリッド種では75%の種子でしか発現しない。従って、CICRの研究者を含むインドの研究者は、インド農民の利用のためのストレート品種の開発努力を強めねばならない。

 我々がデータを発表した理由は、一層の改善ができるように、この技術の長所と短所を評価することであった。そして、今後の研究が毒性発現の強化に焦点を当てるべきであることを示した。我々は、「Bt-GM技術はそれ自体は最も環境に優しいワタキバガ防除方法の一つであることを証明してきたから、研究者、技術提供者、行政は、それが投資に対して可能なかぎり最善の報酬を与える形で農民に提供されることを確保することが技術そのものの利益となる」と、我々の目標をはっきりと述べた。

 私は、BtワタをめぐってNGOが上げる無意味な大声がすぐにも終わりを告げることを心から願う。、