米国世論調査 消費者の66%が動物クローンは”不快” GM食品にも50%が反対

農業情報研究所(WAPIC)

05.10.18

  農業バイオテクノロジーに関する客観的情報を提供し、論議を深めることを目的とする米国の独立団体・The Pew Initiative on Food and Biotechnologyが15日、遺伝子組み換え(GM)食品とクローン動物に関する最新の世論調査結果を発表した(http://pewagbiotech.org/research/2005update/1.php)。

 調査は2005年10月10-16日に電話で行ったもので、調査対象は1000人の米国消費者という(誤差の範囲は、95%の信頼度で+/−3.1%とされている)。この団体は、2001年の設立以来、何回か同様の調査を行っているが、今回の調査はクローン動物と輸入GM食品の受け止め方を調査したところに特徴がある。

 調査の結果で浮き彫りになったのは、米国人のGM食品・動物に関する知識は相変わらず貧しいが、とりわけ動物クローンを不快(uncomfortable)と感じる人が多いことだという。また、クローンに対する消費者の態度の決定で重要な役割を演じているのは宗教的・倫理的関心で、クローン・GM動物に関する規制の決定に際しては、政府は倫理的・道徳的な面も考慮すべきと考える消費者が大多数を占めた。

 ただし、GM食品に対する懸念は引き続きあるものの、技術の新たな利用の禁止を支持する消費者は少なく、新たな製品の安全性を確保するために規制者が積極的に動くことを求めている。GM食品の輸入に関しては、消費者はほとんど何も知らないが、米国の規制を支持していることが明確になった。それでも半数の消費者はGM食品導入に反対している。反対者の比率は、GM食品についてよく知る者ほど増える。

 主要な調査結果は次のとおりである。

 ・バイオテクノロジーについては聞きなれているという者が61%に上るが、GM食品については知らないという消費者が依然として大多数(58%)を占めている。GM食品が食品店で売られていると聞いたことがあるのは41%にすぎなかった。GM食品とバイオテクノロジーに関する知識全般については、以前に比べて僅かに向上しているものの、これに対する態度は全般的に不変にとどまっている。

 ・GM食品を食べていると思う消費者は25%にすぎない。GM食品に反対する消費者は2001年以来減ってきたものの、なお50%が反対しており、その導入に賛成する消費者は25%にすぎない。33%がこれに”強く”反対している。強く支持するのは8%にすぎない。

 ・消費者はGM食品輸入についてはほとんど聞いたことがないが、米国の規制を支持している。80%の消費者がGM食品の輸入についてはほとんど、あるいはまったく聞いたことがないと答えている。とはいえ、65%の消費者がGM食品の輸入に反対と言い、52%は強く反対すると答えている。さらに、65%は、外国の生産者にも米国生産者に課される のと同じレベルの規制を課すことを強く支持している。

 ・動物クローンについては、65%の消費者が聞いたことがあると言い、GM食品について聞いたことがある消費者の比率・41%、GM動物について聞きなれている消費者の比率・34%、GM食品輸入について知っている消費者の比率・18%を大きく上回る。そして、66%の消費者が動物クローンに大いに不快を感じている。動物クローンから生産される食品が安全と考える消費者は23%にすぎず、43%は安全でないと考えている。34%は動物クローンの安全性については意見を持っていない。

 ・それにもかわらず、人間に便益を提供する遺伝子組み換えやクローン動物の利用には広範な支持がある。鳥インフルエンザ抵抗性の鶏、狂牛病(BSE)抵抗性の牛の生産は40%の消費者が賛意を示している。[これは、多くの消費者がこれらの病気の脅威を深刻に受け止めていることの表れであろう]

 ・63%の消費者が、政府当局は動物のクローニングと遺伝子組み換えに関する規制を決定するに際して道徳的・倫理的考慮を行うべきと考えている。

 全米科学アカデミーを含め、大部分の科学者はクローン動物からの食品は安全で、通常の食品と変わるところがないと結論している(米国:科学アカデミー、遺伝子操作動物の安全性で報告書,02.8.22)。食品医薬局(FDA)はクローン動物の乳とその子の肉の安全性を審査しており、近々承認すると予想されている。しかし、それが店頭に現れても、多くの消費者が購入することはなさそうだ。クローン動物からの食品は安全でないと考える消費者が40%以上を占めることだけではなく、クローン動物を”不快”と感じる人が66%に上ることは、この技術の将来が決して明るいものではないことを示唆する。安全性の問題を”科学的”にクリアするだけでなく、消費者の”不快感”を取り除かないかぎり、この技術の展望は開けない。この技術の推進に狂奔する科学者、開発者、生産者がそれに成功するとは考えられない。それは非常な長期にわたる歴史的経験のみが可能にする。

 これは、恐らく植物GM食品にも当てはまるだろう。今でのところ、米国消費者が食べているGM製品は、加工食品の僅かな構成要素でしかなく、米国消費者はこれら加工食品にGM成分が含まれるかどうか知らされることなく食べているだけだ。大量に生産されるGMトウモロコシや大豆のほとんどは家畜の飼料として使われているにすぎない。GM技術の世界的普及に不可欠なGM小麦やGM米が登場すれば、今は何の問題も感じることなくGM食品を受け入れている米国消費者の態度にも大きな変化が起きる可能性がある。この調査結果はそのことも示唆している。

 実際、この調査報告は、GM食品について最もよく知る人では54%がその導入し反対しており、それについて少しは知っている人ではこの比率が47%に下がるという重要な事実を明らかにしている。つまり、GM食品に関する情報が増えるに応じて反対が増えるということだ。基本食料であるGM小麦の導入となれば、GM食品に関する情報と論争は飛躍的に増え、高揚するだろう。クローン動物同様な未来が見える。

 関連情報
 米国食品医薬局(FDA)、クローン動物は食品として安全,03.11.1
 米国食品医薬局(FDA)パネル、クローン動物の安全性に疑義,03.11.5