ドイツ新政権 エコロジカル農業に代えてGM農業促進へ

農業情報研究所(WAPIC)

05.12.26

 フランスは02年、ジョスパン社会党政権が保守政権と交替するやいなや、1999年農業基本法で導入された国土経営契約(CTE)、すなわち戦後フランス農業を支配した”生産性至上主義”を脱却、農業の多面的機能ー経済的・社会的・環境的機能ーを維持・増強をする農業経営計画を立て・実践することを約束する農家を助成するための契約制度を、カネと行政コストがかかりすぎると、直ちに投げ捨てた。同じようなことが、シュレーダー社民党政権を継いだばかりのメルケル政権の下で起きようとしている。

 2000年末に狂牛病が発見され、パニックのなかで2001年初めに就任した緑の党のキュナースト前消費者保護・農業相は、狂牛病の根本原因はEU共通農業政策(CAP)が促進した「工業的農業」にあるとして、一貫して有機農業等エコロジカルな農業の奨励に努めてきた。遺伝子組み換え(GM)作物の導入に対しても、その障害になるとして、一貫して否定的態度を貫いてきた。

 ところが、新政権のホルスト・ゼーホーファー消費者保護・農業相は、早速、有機農業に代えてGM技術の促進に乗り出した。キュナーストが承認を拒んできたモンサントとパイオニア・ハイブレッドの3種のGM種子の利用と販売を承認した。GM作物と一般作物・有機作物の共存は可能と言う。

 しかし、エコロジカルフード産業連盟の指導者は、共存を妨げる多くの要因があるし、GM食品分離の高いコストを払わねばならない消費者も反対している、ナタネのような作物では花粉が遠くまで飛散するから非GM作物の収穫は不可能になるし、シュガー・ビートのようなGM作物でも特別な輸送と扱いが必要で、有機食品の厳格な要件を持たすのも困難になり、高いコストを生むと批判している。

 Germany Starts Sowing GM Seeds,DW-world,12.22
 http://www.dw-world.de/dw/article/0,2144,1831085,00.html

 有機農業・エコロジカルな農業への助成も見直す。新大臣は、大量の助成にもかかわらず、エコロジカルな農業のシェアは未だに4%を占めるにすぎない、2006年に2億€の予算削減をせねばばらないときに、以前の”イデオロギー”に駆り立てられたプロジェクトに大枚をつぎ込むのは不合理だ、政府の特別な助けなしでやって行けと言う。大臣のスポークスマンは、有機農業を否認するものではなく、様々な生産方法の平和的共存を目指すのだと弁明する。

 しかし、なお政権の一翼を担う社民党の農業関係スポークスマンは、エコロジカルな農業はなお特別扱いに値する、有機農業助成を削減しようとする者はそれが急速に成長してきたこと、助成削減はこの部門で創出された多くの雇用を破滅させることを知らねばならないと言う。有機産品の市場シェアは上昇しており、価格が高騰すれば国内需要の大きな部分が輸入品で満たされることになるとも警告する。

 Discontent Simmers Over Change in German Farm Policy,DW-world,12.24
 http://www.dw-world.de/dw/article/0,2144,1834803,00.html

 政権が変わると農業政策の基本方向まで一変してしまう。おかしな、情けない話だが、こんな基本路線をめぐる議論が巻き起こるだけでも日本よりましかもしれない。日本には、そもそもエコロジカルな農業路線など存在しない。生産の”担い手”作りは議論されても、環境保全の”担い手”の保護はまったく議論されない。まして有機農業の直接助成制度は存在しない。環境保全支払の議論はあるが、誰が環境保全を担うのだろうか。