南アフリカ GMO法案審議を開始 アフリカでのGM農業発展は夢物語

農業情報研究所(WAPIC)

06.1.19

 アフリカで唯一、遺伝子組み換え(GM)作物を栽培する南アフリカの議会が17日、同国が2003年に調印したバイオセーフティーに関するカルタヘナ議定書に合わせるためのGMO法案の修正に関する審議を始めた。この議定書は、GMOの移転や利用のためのルールを定めるもので、事前に費用がかさむ詳細なリスク評価を実施するように求めている。

 モンサント社や国内の一部グループは、南アフリカのバイテク産業の損害を最小限にするように、議定書は環境省により再評価されるべきだ、議定書採択は研究と開発の不必要な障害を作り出すなどと、議定書に沿った法改正に反対を続けてきた。

 しかし、南アフリカの環境団体・バイオウォッチ等は、GM作物の商品化を計画する研究者や企業に許可を与えるかどうかの決定への公衆の参加や国内で栽培されるGM作物に関する十全な情報提供を求め、またGM作物による偶然の汚染の責任をバイテク産業に負わせる[現行法では農民や消費者などのユーザーが責任を負わねばならない]ように粘り強い運動を続けてきた。昨年2月には、プレトリアの最高裁が農業省に対して、すべての国内栽培GM作物に関する情報をバイオウォッチに提供するように命じてもいる。

 Court orders government to lift veil on GMO decisions,05.2.24
 http://www.biowatch.org.za/main.asp?show=13

 こうしたなか、昨年10月に改正法案が議会に上程されたが、それは妥協的なもので、環境団体の要求にはほど遠いものであった。審議開始に先立ち、バイオウォッチ等諸団体は、@決定過程への公衆の参加と情報へのアクセスはなお厳しく制限されている、Aリスク評価と決定への科学的アプローチの強調で環境・社会・経済的要因が犠牲にされている、B評価とGMO活動の規制の指針が不十分、C独立審査なしのリスク評価の提出を申請者に許している、D責任をなお生産者や消費者に課している、EGMOの表示の義務付けの定めがない、F違反行為があった許可保有者に修復の義務を課す手段が欠けている、Fいくつかの重要分野で、カルタヘナ議定書を南アフリカの規制システムに組み込むことを怠っている、などと批判する声明を出した。

 Put all new applications for genetically modified organisms on hold until GMO Amendment Bill is substantially revised06.1.16
 http://www.biowatch.org.za/main.asp?show=27

 それにもかかわらず、17日、一部科学者は、法の強化は研究コストを吊上げ、国際協力を妨げると政府に警告、モンサントに同調したという。

 Scientists, Monsanto Warn On Law's Costs,Business Day via AllAfrica.com,1.18
  http://allafrica.com/stories/200601180190.html

  これでは、農業バイテクがアフリカを飢餓と貧困から解放すると主張する研究者やバイテク企業は、自ら首を絞めることになるだろう。昨年12月、国際食料政策研究所と食料・農業・自然資源政策分析ネットワークの共同研究は、すべての関係者の対話、情報の共有とコンセンサスの形成、広範な食料安全保障・貧困削減戦略(GM作物導入だけで飢餓が解消され、貧困が削減されるわけではない)の開発を欠けば、02年に食糧援助拒否をもたらしたような論争が永続、飢餓と貧困からの解消という目標は永久に実現できないだろうと警告している。

 Biotechnology, Agriculture, and Food Security in Southern Africa,05.12
 http://www.ifpri.org/pubs/books/oc46/oc46.pdf

 にもかかわらず、バイテク企業や推進派はこのための努力を怠るだけでなく、それに水をかけてまわっている。アフリカで最前線を行く南アフリカがこの現状では、今年のISAAAのGM作物栽培状況報告を受けて米国務省が豪語するようなGM作物のアフリカへの普及は夢物語となるであろう [とりわけ、切り札とされる干ばつ抵抗性作物の開発については、それがいつ完成するのか、確たる見通しはまったくない。ただただ、宣伝のための希望的観測が流されるだけである]。

 Report Projects Increase in Use of Biotech Crops in Next Decade,United States Department of State via AlAfrica.com,1.11
  
http://allafrica.com/stories/200601120005.html

 それを言うならば、これらのすべての問題に、自ら最優先で取り組まねばならない。GM作物の一方的な宣伝は、このための何の助けにもならないばかりか、有害でさえある。