GMO汚染コントロールは失敗ー英国NPOとグリーンピースが世界初の汚染目録

農業情報研究所(WAPIC)

06.3.11

 市民の利益・環境保護・動物福祉の観点から遺伝子技術の開発を監視する英国のNPO・遺伝子ウォッチ(GeneWatch UK)とグリーンピース・インタナショナル(Greenpeace International)が3月8日、世界で初めての遺伝子組み換え体(GMO)汚染目録と、GM作物の大規模商業栽培が始まった1996年以来のGMO汚染・違法な栽培と放出・農業への悪影響に関する公的・科学的文献に報告されたケースを再吟味する報告書を発表した。それによると、GM物質が意図することなく食品に入り、あるいはGM作物の花粉は野生近縁種を汚染した”汚染”の88のケースを含む113の”事故”があった。また、GM作物の違法放出も17件を数え、これらは、例えば中国の米やタイのパパイヤなどの屋外実験、あるいはブラジルの大豆やインドのワタなどで起きたような弱体な商業栽培コントロールから生じた。

 報告書には、2005年に起き、米国、ヨーロッパ、日本、そして恐らくは米国からトウモロコシを輸入する他の国々にも影響を与えたシンジェンタ社のBt10GMトウモロコシによる汚染の特別レビューも含まれる。しかし、これらの事故は、多くは発見されず、あるいは隠されているから、実際に起きていることの一部にすぎないという。報告は、GMOが生物多様性を脅かすことがないように保証するカtルタヘナ議定書の下でこのような事故の登録簿を立ち上げることを始めとする様々な対策の強化を要請している。

 GM Contamination Report 2005,06.3.8
  http://www.greenpeace.org/raw/content/international/press/reports/gm-contamination-report.pdf

  報告が伝える主要な事実は次のとおりである。

 ・汚染が88件、違法放出が17件、農業への悪影響が8件、計113件の事故があった。2005年については、これらはそれぞれ、7件、8件、3件を数えた。

 (→表1 種類別事故数の年次推移、p.6)

 ・1996年以来、全体で39ヵ国がこれらの事故の影響を受けた。これはGM作物を栽培する国の数のほぼ2倍に相当する。これらの事故は、米国では他の国のほぼ2倍を数える。これはGM作物栽培面積が大きいことの結果と見られる。しかし、GM作物の商業栽培がない英国の事故も2番目に多い。これは、GM作物の監視の強化と汚染発見のための一層の努力を反映していると見られる。英国の事故数は、英国並みの監視が行われれば他の国でも発見されるだろう事故の数の指標となり得る。

 (表2 国別総事故数の年次推移、p.8)

 ・113の事故の90%は商業的に栽培される4大作物に関連している(トウモロコシ:35%、大豆:23%、ナタネ:18%、ワタ:9%)。ハワイで商業的に栽培されるパパイヤを除く他のGMOにかかわる事故としては、草・プラム・ジャガイモ・米の違法放出、屋外実験に利用されたGMテンサイによる汚染、コントロールの欠陥か過誤から生じたGM豚・トマト・ズッキーニによる汚染があった。

 (表3 作物別事故数の年次推移、p.9)

 ・大多数の汚染は完全には調査されていないが、大多数の種子汚染の原因は花粉による交雑であるように見える。食品、飼料、種子の汚染には、貧弱なコントロールと収穫後の分離の失敗も大きな役割を演じている。

 ・17の違法な放出は、研究開発または闇市場(インド、ブラジル、ルーマニア)に関係している。研究開発に関連した違法放出の共通の原因と見られるのは取り扱いの過誤である。

 ・農業への悪影響の報告され、検証された8ケースは、米国、アルゼンチン、カナダ、オーストラリアで起きた。これらには、米国とアルゼンチンにおける除草剤耐性雑草の出現、インドのBtワタの信頼できないパフォーマンス、GMワタに使われた毒素・Cry1Acに抵抗性の標的害虫のオーストラリアの圃場での最初の出現が含まれる。

 ・GM汚染目録からのデータは、GM汚染があらゆる開発段階でおき得ることを示している。誤認、貧弱なコントロール、実験所における適切なコントロールの意識の欠如は、世界中に流通しているGMトマト・ズッキーニ・トウモロコシ種子とGM豚からの肉が食品チェーンに入るのにつながった。屋外実験に使われる種子は、英国における科学的な農場規模の評価実験でさえ、他のGM作物によって汚染されていることが分かった。実験的試験は近隣作物の汚染につながった。花粉による交雑と貧弱なコントロールは、非GM種子と援助食料の汚染につながった。ブラジル、インド、ルーマニアにおける違法なGM作物大規模栽培は、科学者が行う違法な試験やそれらの適切な封じ込めの失敗とともに、”厳格に封じ込めらている”と主張される場合でさえ、GMOがしばしばコントロール外になることを示している。

 ・2005年のBt10トウモロコシの汚染事故は、GM汚染の発見と防止の特別の問題を明らかにする。公式には、このGMトウモロコシは存在しなかった。屋外試験で試験されていなかったから、詳細は許可を得るために当局に開示されなかった。試験に使用されていたとしても、構造と挿入された遺伝子に関する情報が公表されたとは考えられない。これは、しばしば「企業機密」とみなされるからだ。これは、過去数年の間に基準的慣行になったばかりだ。同時に、ますます多くの人間の健康に関して潜在的に危険な遺伝子配置ー薬品やその他の生物学的活性成分を発現させるーが作物に導入されるようになっており、これは簡単には発見できない。GM薬品生産作物などの貧弱なコントロールは米国農務省によっても浮き彫りにされた。

 これらの事実から、報告は次のように結論する。

 ・実験室から農場までの現在のGMOコントロールは有効でなく、失敗につながりやすい。

 ・国と企業は、GM作物の違法販売をしばしば防止できない。

 ・絶対に安全なコントロール・システムはなく、人的エラーは常に事故につながる。

 ・汚染、違法放出、悪影響を発見し、調査する独立システムは設置されていない。国家的・国際的及び企業の構造は不適当で、恐らくは大多数のGM汚染事故は発見されておらず、発見されたケースの一部だけが公表されているにすぎないことは確かだ。

 ・諸国は、GMOの違法な国境を超える移動をクリアリング・ハウスに通報するカルタヘナ議定書の下での義務を果たしていない。

 ・貧弱なコントロール企業機密を理由とする情報の欠如の結果として、潜在的に危険な遺伝子が食料チェーンと環境に侵入する可能性がある。

 ・汚染やその他の事故の経済的コストは高かったし、将来も高まり続ける。

 こうして、次のことを要請する。

 ・GM汚染を調査し、それを覆すための措置を実施する独立した国際委員会の設置。

 ・世界中で公開利用できる事故のケースの目録のカルタヘナ議定書の枠内での創設と維持。

 ・GMOの違法な国境を超える移動のクリアリング・ハウスへの通報のカルタヘナ議定書締約国に対する義務化。

 ・GMOの国境を越える移送の確認と記録文書の国際基準の緊急の策定と執行。

 ・公衆の利益が企業機密に上回らねばならない。

 ・GMOの事象特定的検出方法が屋外実験と商品化の前提条件とならねばならず、あり得る逸出に際して公開で利用できねばならない。

 ・高リスクのGM栽培国からの輸入品が日常的な検査と調査の標的とされるべきである。

 ・GMOの意図的違法放出をした企業、あるいはその防止と管理に協力しない企業からは、GM製品商品化の権利を剥奪すべきである。

 ・違法行為が起きたときには、当局は断固とした行動を取らねばならない。実質的で予見可能な懲罰がなければ、不注意でひとりよがりなやり方が促される可能性が高い。企業は製品とGMO事象の世界的散布の記録の保存を義務付けれらるべきである。

 ・GM汚染と違法栽培から生じる環境・健康・経済的損害に対して厳格な賠償責任を負わせる国家・国際ルールが導入されねばならない。GMOを生産するバイテク企業は、他の当事者により無視できると証明されないかぎり、賠償責任を負う。

 ・バイテク企業、その保険企業と投資企業は、GMOの開発と販売のあり得る賠償責任を再検討し、その財務報告でこれを完全に開示すべきである。

 ・現在の条件下でのGMOの承認と放出の停止。