インド国立研究機関研究者 高価なGM作物が農民を自殺に追い込むと政府を批判

農業情報研究所(WAPIC)

06.4.12

 インドの国立農業経済・政策研究センターの上級科学者・Aldas Janaiahが、個人的見解であり、雇用主あるいは政府の見解を反映するものではないとして、政府はモンサント社が所有する遺伝子組み換え(GM)作物品種承認拡大政策を見直すべきだと論じている。

 彼は、GM作物はインド、特にその中小農家に対する解答なのかと問う。そして、GM品種の技術的優秀性は証明されたとしても、途上国農民にとって死活的に重要なのは手頃な価格だ、この観点からすれば、GM作物はインド農民への解答をなさない、他の国に比べて法外に高い価格、特許使用料が徴収されており、そのために企業のラベルのない安価な種子が出回り、あるいは高価な種子の購入で借金が嵩んだ農民が自殺にまで追い込まれていると言う。詳細は次のとおりだ。

 Why a re-think on GM crops is needed,The Hindu Business,4.12
 http://www.indiapress.org/gen/news.php/Business_Line/400x60/0

 政府は、農家が有効な害虫抵抗性品種を探していた2002年に、初めてGM作物ーBtワターを承認した。現在、Btワタは世界全体で950万ha栽培されている。Btワタが栽培される面積は、米国、中国、アルゼンチン、南アフリカ、メキシコ、インドで99%近くを占める。インドでは、2002年の最初のハイブリッドBtワタ の失敗にもかかわらず、新たな品種がアンドラ・プラデーシュ、カルナカタ、マハラシュトラ、グジャラートで急速に広がっており、2005年の国のワタ栽培面積の15%をカバーしている。

 Btワタの技術的優秀性は十分に証明されてきたとしても、手頃な価格でのGM技術へのアクセス可能性は途上国農家にとって死活的に重要な要因だ。

 例えば、Btワタの場合、特許権はモンサントが持つ。従って、種子の価格と特許使用料を設定する権限はモンサントにある。中央政府も州政府も、Btワタ種子の価格設定に関するいかなる発言権も持たない。他の国におけると同様、モンサントはBtワタ種子の生産と販売のためにインドの種子産業とタイアップしている。

 2005年、1エーカーをカバーするのに十分な450g当たり、インドでは1850ルピーで販売された(1haあたりでは4625ルピーとなる)。そのうちの1250ルピーはモンサントに支払われる特許使用料だ。これで中小農民が利益を得られようか。1ha当たりのBtワタ種子のコストは、南アフリカ、中国、メキシコでは、それぞれ620ルピー、1380ルピー、2500ルピーだ。しかし、アルゼンチンで4430ルピー、インドでは4625ルピーにもなる。

 American Journal of Agricultural Economics(,November 2003)に発表された論文によると、モンサントは1ha当たり2500ルピーの価格で最大限の利潤を上げていると推定される。また、2003年のFAOの数字では、インドのエーカー当たり1250ルピーに対して米国では573ルピーの特許使用料を徴収しているにすぎない。何故なのか。上記論文によれば、米国では農民団体の強い圧力があるためだ。モンサントは、米国の低価格をインドとアルゼンチンで埋め合わせている。このような戦略は、長期的には深刻な悪影響を引き起こす。

 第一に、法外な種子価格ではBtワタの目標そのものが果たされない。ワタ作農民の低所得と生産コスト増加の問題はBtワタで解消されない。

 第二に、法外な価格はブラック・マーケットにつながる。アンドラ・プラデーシュ、マハラシュトラ、パンジャブでは、Btワタ種子が企業のラベルなしで安価に販売されているという報告がある。

 最後に、このような価格設定は、インド農民を特にワタ栽培ベルトで一層の借金に追い立てている。アンドラ・プラデーシュ農民の83%が借金を抱えている。特にワタベルトの借金苦の一部農民は、借金に耐えられず自殺に走っている。

 この状態から脱出するために、政府はモンサント所有のGM品種承認の拡大政策を厳格に見直さねばならない。種子は遺伝子革命とグローバリゼーションの時代の決定的に重要な資材だから、政府は”種子”を質と価格を規制すべき必需商品とみなすべきである。肥料が必需商品であり得るなら、種子は何故そうでないのか。

 さらに、国内種子産業は、農民の問題に取り組む社会的責任があるのだから、種子価格を低く保つためのモンサントとの技術共有と特許使用料に関する協定を持つ一方、交渉力を統一し、改善すへきである。