GMワタは集約農業の環境影響を減らす だが一般化は時期尚早ー米国の研究
06.5.13
遺伝子組み換え(GM)作物の導入の是非をめぐる論争における中心的論点の一つがその環境影響の問題だ。GM作物の開発者・唱道者は、その導入が近代的集約農業がもたらす環境影響を軽減すると常に主張してきた。その中心的論拠の一つが、GM作物導入が環境に有害な農薬の使用を減らすというものである。しかし、これに関しては、GM作物導入が却って農薬利用を増加させているという報告もあり、なお論争が続いている。
こうしたなか、このような論争に一石を投じる新たな研究が発表された。アリゾナ大学のYves Carrièreが率いる研究チームが米国科学アカデミーのProceedings of the National Academy of Sciences誌の最新号に発表した研究だ(*)。彼らは、農業集約化の影響を緩和するためには収量を高め、農薬使用を減らす必要があるという観点から、いくつかのタイプのワタを栽培するアリゾナの81の圃場を対象に2年間にわたる農場規模評価を行った。
この研究は、2種のGMワタ(害虫を殺す毒素・Btを生産するバクテリア遺伝子を組み込んだGM・Btワタと、これに除草剤耐性を与える遺伝子を追加したGMワタ)と通常の非GMワタの栽培に農家が使う殺虫剤と除草剤の量と収量、生物多様性への影響を比較したものだ。
この研究結果によれば、Btワタは殺虫剤の使用料を減らしたが、どちらのGMワタも除草剤の使用量には影響を与えなかった。収量に関しては、殺虫剤施用の回数が一定であるならばGMワタの方が非GMワタよりも多かったが、殺虫剤使用量がより多い非GMワタは重要害虫の防除を改善するために、全体的には、いずれのワタの収量も同等であった。
生物多様性への影響に関しては、殺虫剤は、GMワタと異なり、非標的昆虫の多様性を減らした。
要するに、これら品種の収量は全体的には同等だが、非GMワタ栽培には害虫防除のために追加殺虫剤を使わねばならない、除草剤は同量を使うということだ。殺虫剤と除草剤の使用は圃場の非標的昆虫に有害であり得る。
しかし、研究は、ワタ圃場の非標的昆虫の多様性と隣接する非耕作地におけるその多様性を比較すると、GMワタ、非GMワタの栽培の生物多様性への影響は同等であることも明らかにしたという。
研究者は、これらの発見はBt作物が農業集約化の環境影響を軽減するのに有益であり得ることを示唆するが、これは農業者がBt毒に影響されない害虫の防除のために殺虫剤を使用する必要があるかどうかにかかっていると指摘する。研究結果は、農業集約化の影響は、広範囲の害虫を標的とする殺虫剤を狭い範囲の害虫だけに効く殺虫剤に置き換えるときに軽減されることを示唆する、農業集約化の影響を減らすためにBt作物を利用するかどうかを決定するときには、すべての重要害虫とそれらの防除手段を考慮に入れるべきだと強調する。
この研究を取り上げたNew Scientistの記事は、”GMサイドがマイナーな勝利を勝ち取った”と言う。
Modified cotton cuts pesticide use,NewScientist..com,5.11
http://www.newscientist.com/article/mg19025505.600-modified-cotton-cuts-pesticide-use.html
Carrièreは、「収量、農薬、非標的生物、我々は遺伝子改変の環境影響を評価するためにはこれらすべてを調査せなばならない。・・・GM作物は農業の影響を減らすために非常に有望だが、それが農業を行う方法にどのように組み込まれるかを研究する必要がある。それは生産者がこの技術にどのように反応するかにかかっている。それは生態学的に複雑な問題だ。”アリゾナで良いから、どこかほかの場所でも良い”とは言えない。一般化する前に多くのシステムを慎重に研究する必要がある」と言う。
UA(University of Arizona) news:Biotech Cotton Provides Same Yield with Fewer
Pesticides(06.5.1)
http://uanews.org/cgi-bin/WebObjects/UANews.woa/7/wa/MainStoryDetails?ArticleID=12616
論争に決着をつけるような”GMサイドの大勝利”ではない。
*Yves Carrière et al,Farm-scale evaluation of the impacts of
transgenic cotton on biodiversity, pesticide use, and yield,Published online
before print May 4, 2006;Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 10.1073/pnas.0508312103
Abstract:http://www.pnas.org/cgi/content/abstract/0508312103v1