中国 GM作物研究は続けるが開発・商品化には慎重 GM米承認の見通しはなお不透明

農業情報研究所(WAPIC)

06.6.19

 中国新華網によると、17日にハルピンで開かれた国際食品安全フォーラムで、農業部所管下にある農産物品質安全センター副所長が、中国は遺伝子組み換え(GM)作物の開発に慎重であるが、農業のための生物工学の研究活動は維持すると語ったと言う。

 彼は、中国は100品種以上のGM作物の開発を終えたが、農業部は、そのうち大豆、トウモロコシ、採油用ナタネ、ワタ、トマトの5種類の作物の商業栽培を許したにすぎないことを明らかにした。

 「中国ではGM作物の開発・生産・販売は非常に厳格に管理されている」と語った。

 中国で最も広く栽培されているGM作物は1998年に初めて導入されGMワタで、現在は30を超える害虫抵抗性GMワタが800万haの農地で栽培されている。GMワタの栽培は農薬使用量を5万トン減らし、21億ドルの経済的利益をもたらしているという。

 China prudent in developing GM farm produce,xinhua.net,6.17
 http://news.xinhuanet.com/english/2006-06/17/content_4710700.htm

 しかし、GM米の導入に関しては、何も触れられていない。その見通しはどうなるのだろうか。それが世界がもっとも知りたいところである。

 チャイナ・デーリー紙は今年2月、中国は第11次5ヵ年計画(2006-2010年)のためのバイテク開発戦略を策定した、この戦略の枠内でGM作物も含む主要作物のバイテク種子の開発を推進すると同時に、安全性監視への投資を増やし、GM作物の商品化のための 安全性評価を一層包括的で厳格ななものにすると報じている。この報道は、中国のGM作物の現状についても次のように伝えていた。

 China intends to push for GM crop studies,China Daily,2.14
 http://www.chinadaily.com.cn/english/doc/2006-02/14/content_519769.htm

 中国国家バイテク開発センターのChina Bio-Industrial Reportによると、中国は2003年半ばまでに585のGM植物の実験を承認、うち154は環境放出、48は生産前の試験が承認された。商品化が承認されたのは、1990年代末の段階でGMワタ・トマト・スパニッシュペパーとアサガオの一品種である。GM(Bt)ワタの商業栽培は1997年に導入され、現在は中国ワタ栽培地の66%がGMワタ栽培地となっている。

 中国農業科学院(CAAS)の科学者は、ワタの主要害虫である綿実蛾幼虫を殺すだけでなく、収量も増加させるBtワタの開発に成功した、そのハイブリッド品種が中国全体に広がれば、農民は年に12億ドルを節約できると言っている。

 しかし、中国はGM米の商業栽培には慎重だ。昨年、GM作物の商品化に関する技術的決定機関であるGM作物生物安全委員会が改組された。以前は委員会を支配していた農業バイテク科学者の数が変更され、生物安全と環境に関する科学者が委員会に加わった。 都市や省に地方レベルのGM作物安全性評価機関を設立し、あるいはGM品種を開発する研究チームから独立した安全性評価研究所を設立する計画もある。既に2005年末、このような評価機関の一つが上海に設立された。改変遺伝子の流出の監視を改善するため に、GM作物検査施設改善投資も増やされる。

 GM米の商品化を唱導する主導的科学者のZhu Zhen氏は、「GM植物の規制の改善はいいことだ。生物安全・環境科学者のGM作物審査チームへの加入により、チームはGM技術の安全性や有効性に関する直接的経験を増やすことになる」、それはGM作物の数を増やすことにつながると、この動きを歓迎している。

 しかし、CAAS植物保護研究所の上級研究者・Zhang Yongjun氏は、害虫がBt作物への抵抗性を発達させることを最も恐れている。米国では、Bt作物栽培地にその20%の面積の非GM作物からなる(害虫の)「避難地」を付設することで、今までのところ、害虫の抵抗性発達を抑えるのに成功している。しかし、中国ではワタ農民がいくつかの非GM食用作物を栽培するのが慣例であるために、それが自然の避難地となってきた。そのために、米国のように避難地をわざわざ付設する理由がなかった。

 ところが、GM米やGM小麦のような主要食用穀物のGM製品が商品化されれば、話は違ってくる。稲作農民は、面積が非常に小さく、収益を最大にするためにGM米だけのモノカルチャーに走るだろう。そうなると、避難地を付設する農民の助成手段が捻出されねばならなくなる。さらに、Btワタでも、 その普及とともに、タバコカスミカメ(Cyrtopeltis tenuis)のような標的害虫以外の害虫が 主要害虫として登場してきた。いまのところ、農民は万能型の殺虫剤でこれを殺しているが、農民の健康が脅かされている。タバコカスミカメに標的を絞った農薬の開発が新たな課題になっている。

 彼は、GMワタの有効性はマイナーな害虫やその他の問題で覆されることはなかろうが、主要GM穀物では状況が一層複雑になると言う。このようなGM作物が商品化されるとき には、他のタイプの作物の方が収量がはるかに大きいこともあり得る。そうなると、害虫を殺すというだけでは、GM作物への転換を農民 に承服させることができないという問題も起きる。従って、主要GM穀物の開発には一層慎重でなければならないと言う。

 昨年中にもGM米が承認されるという有力な観測が流されていたが、結局はイランに先を越された(ISAAA 2005年GM作物栽培状況を発表 イランがGM米栽培開始 全体的には閉塞状況,06.1.13)。しかし、それに触発されて中国がGM米承認を無闇に急ぐといった状況にはないようだ。 しかし、それが近い将来に承認されることになるのか、承認までにはなお長い時間がかかるのか、それとも半永久的に承認されないのか、確かな予測は誰もできない。決定過程が余りに不透明で、GM作物生物安全委員会のメンバー構成や決定手続さえもなおヴェールに包まれているからだ。中国のジャーナリスト・Larry Fanは、懸命な取材活動によってもこのヴェールははがされなかったという。

 GM grain in a billion ricebowls? China still silent,PANOS,3.13
 http://www.panos.org.uk/newsfeatures/featuredetails.asp?id=1228

 彼は、GM米が承認されるといわれた昨年末の委員会会合の詳細を知ろうと、会合前に農業部や環境保護局の役人、委員会のメンバーである研究者、その他のGM専門家など12人に電話をかけた。3人の応答が得られたが、すべてが匿名にこだわり、農業部に確認するように求めた。会合の議題や詳細については誰も話さなかった。農業部報道官には接触できす、農業部GM作物生物安全管理局の電話に出た人物は、役人は全部留守で数日間帰らない、自分には何も答えられない、情報が入れば、農業部の公式ウエブサイトに載るだろうと話した。同じ日、一委員会メンバーは、会合については何もしゃべるなと口止めされた。

 彼は、11月末、China Business NewsSafety evaluation on commercialisation of GM rice starts todayと題する短文を書いた。それ以来、農業部のウエブサイトには会合に関する情報は何も現れていない。彼の同僚の一人は、委員会の一メンバーから、安全性評価は結論に至らなかったと聞かされたと言っている(参照:中国生物安全委員会 GMイネ商業栽培を承認せず 一層の安全性データを求める,05.12.12)。

 彼は、このような秘密主義のために、中国ジャーナリストがGM問題を正確に報じるのは極めて困難になっていると言う。委員会の構成さえ正確には分からない。昨年9月、チャイナ・デーリーは、6月に74人の第二次委員会のメンバーが指名されたと報じた。しかし、すべてのメンバーのリストは誰も見られない。中国生物安全ネットのウエブサイトでは、委員の任期は3年とされているが、チャイナ・デーリーは5年と伝えた ()。

 第一次委員会の委員の数もよく分からない。ある報道は58人、ある報道は50人と言う。China Youth Dailyの入手した58人の委員のリストには、バイテク研究者34人、環境保護・生物安全の専門家5人、食品安全の専門家2人の名が見えるだけだった。さらに一部の研究者委員は、自分が開発したGM米の安全性評価の申請者でもあった。

 委員会の評価の結果についても報道は分かれている。チャイナ・デーリーは、委員会の評価は商品化が承認される前の最終段階にあると報じる。しかし、農業部GM作物生物安全管理局の次長のFang Xiangdongは、北京タイムズ紙で、最終的承認は農業部がすること、商品化前に進むまでにはなお多くの段階があると言っている。

 政府は最近、一層の情報開示に努めるようになっており、農業部も国の生物安全管理メカニズムに関する基本的情報をウエブサイトで公表するようになった。しかし、このような情報も概略を示すだけで、詳細を欠いている。中国はGM米の商業栽培にどこまで近づいているのか?彼は、決定過程全体に余りに多くの不明確な側面があるから、確かなところは分からないというのが本当のところだと言う。

 (注)Researchers seriously evaluate GM rice,China Daily,05.9.9
         http://www.chinadaily.com.cn/english/doc/2005-09/29/content_481728.htm