バイテクは生活の改善に役立つがGM食品は要らないー最新のEU世論調査

農業情報研究所(WAPIC)

06.6.20(6.21追補)

 欧州委員会が19日、EU市民がバイオテクノロジーをどのように見ているかに関する最新の世論調査に基づく研究報告を発表した。それによると、半数以上の人々がバイオテクノロジーが彼らの生活の質を改善すると信じているが、農業バイテクにはなお大部分が懐疑的で、新たな作物や製品が消費者に便益をもたらすさない限り、相変わらずそうした態度が続くだろうという。

 この世論調査は、EU各国のおよそ1000人、全体で2万5000人を対象に行われた。バイオテクノロジーに関する同様の調査は、1991, 1993, 1996, 1999, 2002にも行われている。調査は、バイオテクノロジーのみならず、他のいくつかの技術の受けとめ方も調べている。

 Europeans and Biotechnology in 2005:Patterns and Trends(Eurobarometer 64.3)
  http://www.ec.europa.eu/research/press/2006/pdf/pr1906_eb_64_3_final_report-may2006_en.pdf

 研究結果の概要は次のとおりである。

 ・技術が生活の質の改善に役立つかどうかに関しては、一般的に楽観的見方をする人が多い。

 コンピュータ・情報技術、太陽エネルギー、風力エネルギーに対する楽観度(楽観的見方をする人の比率)は、1991年から2005年の間を通じて高く、安定している。最新調査では、それぞれ79%、78%、74%である。

 バイオテクノロジーに対する楽観度は、1991年から1999年まで低下してきたが、以後反転してほぼ91年レベルに戻った。2005年には半数以上(52%)が楽観的である。ただし、国による違いは大きく、スペイン、スウェーデン、ポルトガル、マルタ、エストニア、キプロス、チェコでは70%を上回るのに対し、フランス、オランダ、ベルギー、フィンランド、ドイツでは50%を割り、オーストリアでは22%、ギリシャでは19%にすぎない。

 ナノテクノロジーに対する楽観度は、2002年以来高まっている。ただし、楽観度は40%にとどまり、この技術について知らないという人が42%に達している。

 原発に対する楽観度は高まる傾向があるもののなお低い(32%)。フランスでさえ、悲観論者が楽観論者を上回る。

 ・ナノテクノロジーや薬理的遺伝学(異なる個人により有効な薬品を創出するために個人の遺伝的コードを分析する)、遺伝子治療の開発は、一般に社会にとって有益で、倫理的にも受忍できると受けとめられている。

 ・遺伝子組み換え(GM)食品については、58%の人々は奨励されるべきでないと考えている。 支持が反対を上回るのは、スペイン、ポルトガル、アイルランド、イタリア、マルタ、チェコ、リトアニアだけである。しかも、支持率は一般的には大きく低下してきている(次表参照)。

 GM食品の完全支持者・リスクに耐えての支持者の比率

 

1996年

1999年

2002年

2005年

スペイン 80 70 74 74
マルタ - - - 66
ポルトガル 72 55 68 65
チェコ - - - 64
アイルランド 73 56 70 55
イタリア 61 49 40 54
リトアニア - - - 54
オランダ 78 75 65 48
英国 67 47 63 48
スロバキア - - - 48
フィンランド 77 69 70 46
ベルギー 72 47 56 45
デンマーク 43 35 45 42
ハンガリー - - - 37
ポーランド - - - 36
スロベニア - - - 33
スウェーデン 42 41 58 32
エストニア - - - 31
ドイツ 56 49 48 30
フランス 54 35 30 29
オーストリア 31 30 47 25
ルクセンブルグ 56 30 35 20
ラトビア - - - 19
キプロス - - - 19
ギリシャ 49 19 24 12

 消費者がGM食品に求める最大の便益は、健康によいとか、残留農薬が少ないといった健康にかかわる直接的便益や環境便益のようだ。健康によいならば買うという人の比率は23% (多分買うは33%)、残留農薬含有量が少なければ買うという人の比率は18%(同、33%)、非GM食品よりも環境に優しければ買うという人の比率は16%(同、33%)だが、適切な当局に承認され れば買う という人の比率は13%(同、31%)、もし安ければ買うという人の比率は12%(同、24%)と非常に少ない。 ただし、健康によくても買わない、残留農薬が少なくても買わない、環境に優しくても買わないというGM食品断固拒否派もそれぞれ21%、22%、22%いる。多分買わないという人も含めるたGM食品拒否派は40%に達する。 

 ・バイオ燃料、バイオプラスチック、バイオファーミング(医薬品生産へのGM植物の利用)などの工業技術は広く支持されている。

 70%の人々がバイオ燃料・プラスチックの開発の奨励を支持しており、バイオ燃料で走る車やバイオプラスチックに一層多く支払ってもよいという人が、そうでない人を上回る。バイオファーミングについては、厳格な規制を前提に認める人が60%ほどで、オーストリアを除くすべての国で半数を超える。

 ・幹細胞研究は、相当な支持がある。胚性幹細胞(ES細胞)については59%、その他の幹細胞については65%が、厳格に規制されるという条件つきで利用を認めている。ES細胞の利用については、26%の人々がいかなる場合にも認めない、あるいは非常に特殊な状況においてのみ認めると回答した。

 ・個人の遺伝的データの利用については、58%の人々が自分のデータが研究目的でデータバンクに蓄えられることを認めている。

 ・バイオテクノロジー関係者に対する信頼度については、大学と産業への信頼度が高まっている(それぞれ73%、64%)。バイオテクノロジー規制に関しては国の政府よりもEUに対する信頼の方が高い(68%対74%)。

 ・技術に関する楽観度のEU・米国・カナダの比較では、核エネルギーに関してEUの方がはるかに低い(EU:37%、米国:59%、カナダ:46%)のを除くと大きな違いはない(調査対象となった技術は、コンピュータ・IT技術、バイオテクノロジー、ナノテクノロジー、核エネルギー)。しかし、GM食品とナノテクノロジーの受けとめ方に関するより詳細な調査(社会に有益かどうか、社会にとって危険かどうか、現在の規制を信頼できるかどうかなど)では違いが現れた。

 GM食品に関しては、EUとカナダの見方は大方同じで、ただ道徳的に受け入れられないとする人がEUの方が少しばかり多いだけだった。しかし、米国では社会に有益で、危険は少なく、道徳的にも受け入れられるという人がEUとカナダよりも多く、現在の規制への信頼度も高かった。ナノテクノロジーに関しては、社会に有益という人はEUの方が多く、規制への信頼度もEUの方が高かった。

 このような比較から、研究は、ヨーロッパでは世論が技術革新の足枷となり、米欧間のテクノロジーギャップの原因となっているという一般的見方は当を得ていないと言う。

 欧州委員会は、概してEUのバイテク規制に対する信頼は高まっているが、これが市民の購買意思、特にGM食品の購買意思に影響を与えた証拠はないと言う。

 Press release:One in two Europeans believe biotechnology will improve quality of life(06.6.19)

  ということは、バイテク産業は、とりわけGM食品に関しては、なお消費者が便益(特に健康と環境への好影響と農薬削減)を感じる製品を提供するに至っていないということであろう。