米国研究者 野生小麦との交配で栄養価の高い小麦の育成に成功

農業情報研究所(WAPIC)

06.11.24

  ネイチャー・ニュースによると、カリフォルニア大学デービス校の研究チームが、1万年ほど前の古代農民が食料生産に完全に適した作物を育成する試みの過程で偶然に失った小麦の栄養成分を復活させるのに成功した。

 研究チームは、パスタやパンを作るために現在栽培されている主要な二つのタイプの小麦(Triticum turgidum)の90品種以上を調査、そのすべての種の種の中の蛋白質、亜鉛、鉄の量を減らす変異を発見した。そして、野生種と作物品種を交配させ、伝統的栽培品種よりも多くの微量栄養素を含み、蛋白質含有量も10%多い新品種を作りだすことに成功した という。

 この発見は、必須微量栄養素が不足する20億と推定される人々のを助ける。品質を検査し、非常に優れたパンができることがわかり、来年にも市場に出せる。 関連する遺伝子は野生小麦由来のNAM-B1と呼ばれる遺伝子で、研究者は、野生品種ではこの遺伝子が”老化”の過程を速め、収穫前により多くの栄養分が葉から種に移動 させるが、栽培品種ではこの遺伝子の発現が抑制されることを関連遺伝子の発現を抑制するRNA干渉技術を使って突き止めた。交配を通じてこの遺伝子を栽培品種に移転させることに成功したわけで、このために問題の多い遺伝子組み換え技術を使う必要もない という。

  ただし、新たな品種は万能ではない。米国ではすぐに使えるが、他の地域では、栽培が地域の条件に適合するように、野生種が地方品種と交配される必要がある。土壌の質などの他の要因も植物の健康に影響を与える可能性があるという。しかし、種子は求めに応じて誰にでも与えられる。大学はこの遺伝子の特許をもつが、米国の小麦の80%は公開されている。それは自家受粉種だから、農民は自身の品種を開発できる。従って、小麦の改良に営利的動機はなく、農業企業は伝統的に他の作物に焦点を当ててきたという。

 研究結果は、Science誌に発表された*

 Putting nutrients back into wheat,news@nature,11.23
 http://www.nature.com/news/2006/061120/full/061120-13.html

 なお、最近、同様なRNA干渉技術を使って綿実が有毒成分をほとんど持たない綿品種の開発に成功したことも報告されている。これも世界の食料・栄養不足の改善に大きく貢献するだろうという。しかし、その実用化には少なくとも10年から20年はかかるだろうとされている(Toxin-free cotton could feed the poor,news@nature,11.20)。

 *Uauy C., Distelfeld A., Fahima T., Blechl A., Dubcovsky J., . Science, 314 . 1298 - 1301 (2006).
  Abstract:http://www.sciencemag.org/cgi/content/abstract/314/5803/1298?etoc