フランス政府 GM作物商業栽培の”凍結”を準備 栽培統制強化立法の制定に向けて

農業情報研究所(WAPIC)

07.9.21

 10月末に開かれる大統領提案の”環境グルネル”(注)に向け、フランス政府が遺伝子組み換え(GM)作物の商業栽培凍結の準備を進めている。17日、ジャン・ルイ・ボルロー環境・持続可能開発整備大臣が国民議会多数派グループ議員にこれを打ち明けた。大臣はル・モンド紙に対し、「GMOについてはすべての人々が一致している。その拡散はコントロールできない。従って、危険は冒さない」と確認した。この決定は、グルネルに際して大臣が妥協を勝ち取るために必要な要素の一つをなすという。

 (注)グルネルとは1968年5月にこの名の街に位置する労働省で交渉され、結ばれたグルネル協定にちなむ言葉で、政府、職能団体、非政府組織等の代表が立法や規制の制定に向けて特定のテーマについて議論をする集会を指す。

 La France s'oriente vers un gel des cultures d'OGM,Le Monde,9.20
 http://www.lemonde.fr/web/article/0,1-0@2-3244,36-957270@51-951150,0.html

 この立場は、なお公式のものではないが、環境グルネルのGMOグループの枠内では確認されている。このグループは、既に、栽培条件を厳しくし、一層厳格な許可制度を作るGMOに関する新規立法の原則を定めた。グループを主宰するジャン・フランソワ・ル・グラン元老院議員は、ボルロー氏と何回も協議した、「彼は、モラトリアムはないだろうが、現実にはすべての許可が凍結され、この状況は法律の採択まで続くだろう」を明言したと言う。

 ル・モンド紙と会見したバルニエ農相も、GMOの研究は擁護したが、「タブーにしてはならない第二の問題がある。2007年、フランスで2万2000fのGMトウモロコシが商業栽培された問題だ。これは、このトウモロコシの許可10年後、わが社会にどんな利益があったのか、評価に値する問題だ」と語ったという。

 フランスで栽培されているGM作物は2007年に許可期限が切れるMON810だけだ。凍結は今から新法採択まで間の新たな許可を拒否することで実現する。

 欧州委員会は2003年以来、GM作物商業栽培の導入に当たっては各国が”共存”措置を講じるように要請してきた。しかし、これを講じた国は、今までのところ、ドイツ、デンマーク、ポルトガルとオーストリアの一部の州に限られる。フランス、スペイン、ルーマニア等では、共存立法を持たない状態、いわばEU法”違反”の状態で、GM作物商業栽培が普及してきた。新たな立法は、このような違法状態に終止符を打つことも狙いにしている。

 法律は、GM作物栽培統制を強化する。それは様々な分野の科学者や団体で構成されるバイテクに関する”高等機関”を設置する。今までは、GMOの科学的評価はバイテク技術者だけが行ってきた。今後は学際的アプローチが取られることになる。この高等機関が、毒性学分析を強化するとともに、社会的・経済的利益の研究も統合して、新たなGMIOに関する意見を政府に提出する。

 法律は、また、汚染の際の責任制度や、GM作物を栽培する経営者の公的登録の制度も定める。グラン議員は、共存の原則は、”ある者の選択が他の者の選択と衝突してはならない”ということだが、”有機農業の畑のGMOによる花粉汚染があってはならない”と言う。

 このような法律制定によって”凍結”は解かれることになるだろう。しかし、統制の強化は事実上の”凍結”を継続させることになるかもしれない。GMO政策の決定は、もはやバイテク技術者の独占権ではなくなるからだ。

 EU主要国も次々とGM作物栽培に走っている、このままでは日本だけが取り残されてしまうと、日本での米を中心としたGM作物商業栽培の早期導入を求める声がある。しかし、実態はこのようなものだ。それに、このように主張する人々が一様に無視するのは、米や小麦のような基礎食料作物のGM品種商業栽培を導入した国はどこにもないということだ。中国、インド、オーストラリアではワタだけで、食料GM作物は一切ない。