Btトウモロコシがトビゲラ→水生生態系に悪影響の恐れ 米国の新研究

農業情報研究所(WAPIC)

07.10.11

 米国の4つの大学の研究者からなる研究チームが、米国で広く栽培されている遺伝子組み換え(GM)Btトウモロコシが水棲昆虫の健康に悪影響を及ぼす可能性を発見した。この水棲昆虫は、このBtトウモロコシの標的害虫と同類のトビゲラ類で、魚や両生類動物の餌にもなるから、影響は水生生態系全体に及ぶ可能性も考えられる。研究は、アカデミー・プロシーディング誌の出版に先立つオンライン版で見ることができる。

 E. J. Rosi-Marshall, J. L. Tank, T. V. Royer et al.,Toxins in transgenic crop byproducts may affect headwater stream ecosystems,PNAS 2007 104: 16204-16208; published online before print as 10.1073/pnas.0707177104 abstract

 研究者は、まず第一に、このトウモロコシが出す毒を含む花粉やその他の部位がトウモロコシ畑の近くの川に流れ込むのを確認した。そして、実験室の試験で、Btトウモロコシ副産物の消費がトビゲラの死亡率を高め、また生長を遅らせることを発見した。

 この研究は、インディアナ北部の農業集中地帯で2005年と2006年に行われたもので、12の上流河川へのBtトウモロコシ花粉とトウモロコシ副産物(葉や穂軸)の流入量を測定した。また、一定のトビゲラの消化管の中に花粉を発見、トビゲラが花粉を食べていることも確認した。

 他方、実験室の試験では、Btトウモロコシの葉を食べたトビゲラの生長速度が、非Btトウモロコシのくずを食べたトビゲラの成長速度の半分以下であることが分かった。さらに、調査サイトで発見される2倍から3倍の濃度のBtトウモロコシ花粉に曝されると死亡率が大きく増える種類のトビゲラも見つかった。

 河川に流れ込む花粉や副産物の量は調査する場所によって大きく異なるだろう。アイオワやイリノイではインディアナよりもずっと多くのBtトウモロコシが栽培されているから、地理的にも大きく異なるだろう。トビゲラの死亡率増加に結びついたBtトウモロコシ花粉のレベルは、コーン・ベルト西部の河川で見られるだろうという。

 このBtトウモロコシは1996年に承認され、急速に広まった。1999年には、このトウモロコシの花粉をかけたトウワタの葉を食べた渡り蝶・オオカバマダラの幼虫が半分近く死に、残った幼虫も小さく、衰弱したというコーネル大学の研究が、環境への悪影響を恐れる世界中のGM作物反対運動に火をつけた。オオカバマダラへの悪影響はその後の研究が否定することになったが、水棲昆虫への悪影響の可能性を示すこの研究は、Bt作物の環境影響の研究がまだまだ不十分であることを示している。

 
このトウモロコシの承認に先立ち、米国環境保護庁(EPA)は、普通の毒性試験で使われるミジンコを使って水生生物相への影響を調べた。しかし、標的昆虫にもっと近い昆虫への影響は調べていない。GM作物の環境影響評価のあり方が改めて問われる。

 研究者の一人は、”新たなどんな技術も何らかの便益とリスクを伴う。私は、Btトウモロコシの広範な栽培に関係したリスクは、多分、完全には評価されなかったと思う”と言う。

  New Study Shows Genetically Engineered Corn Could Pollute Aquatic Ecosystems,Environmental News Network,10.8
  http://www.enn.com/agriculture/article/23718