クローン動物のリスク評価 単純な答え、保証はできない―欧州食品安全機関 

農業情報研究所(WAPIC)

08.7.25

 欧州食品安全機関(EFSA、EUの食品安全リスク評価機関)7月24日、クローン動物の食品安全・動物の健康と福祉・環境への影響に関する最終的な科学的意見を発表した。結論は、包括的には、データが制限された複雑にして変化しつつある科学 と技術については単純に答えることはできない、あるいは保証を与えることはできないというものだ。

 Opinion on Food Safety, Animal Health and Welfare and Environmental Impact of Animals derived from Cloning by Somatic Cell Nucleus Transfer (SCNT) and their Offspring and Products Obtained from those Animals
 http://www.efsa.europa.eu/EFSA/efsa_locale-1178620753812_1211902019540.htm

 これでは欧州委員会も流通許可に乗り出せない。GMO、ホルモン牛肉とともに米国(あるいは、食品としては安全という食品安全委員会のお墨付きを得て、それだけで流通を認めることのなるであろう日本)との規制の差が際立つことになるだろう。

 主要な結論は次のとおり。

 ・利用可能な研究の数が少なく、調査されてサンプルのサイズも小さく、この意見に関連するすべての問題への満足な取り組みを可能にする統一された方法もないために、リスク評価の不確実性が生じる。意見が取り組んだのは豚と牛だけで、この2種については適切なデータが利用できる。

 ・主として牛については年少期、豚については周産期に、有意な比率のクローンの健康と福祉に、しばしば重症や致命的結果も伴う悪影響が出ることが知られる。

 ・動物をクローンするのに最も普通に使われる体細胞核移植(SCNT)は健康な牛・豚のクローン、健康なその子を生産してきた。生理・行動・臨床面のパラメーターに基づくかぎり、対照群との差はない。

 ・クローンとその子の肉とミルクについては、食品安全性に関するかぎり、通常の動物と比べて違いがあることは示されていない。ただし、このような結論は、肉とミルクが適切な食品安全規制と管理に従っている健康な動物に由来するものであるという仮定に基づいている。

 ・限られた利用可能なデータによるかぎり、いかなる環境影響も予見されない。

 かくして、 意見は、@クローンの健康と福祉の生涯にわたる監視、ASCNTを通して生産される牛・豚以外の食用動物のリスク評価の実施(データが利用可能になったとき)、B妊娠期と産後期のクローンに見られる病変と高死亡率、および成熟後のこれらの減少の原因のさらなる調査、C通常の飼育方法で飼われるときのクローンおよびその子の病気や伝達可能な病原体への免疫能力と感染性のさらなる調査、D通常の飼養条件の下での健康なクローンの行動研究も含む動物福祉に関する研究の実施、などを勧告している。

 EFSA科学委員会のヴィットリオ・シラノ議長は、「EFSAは常に単純な答え、あるいは保証を与えることはできない。データが限定されろ可能性のある複雑で進化している科学と技術は、そのようなきちんとした解決法を与えない」と言う。

 Press Room:EFSA adopts final scientific opinion on animal cloning,EFSA,7.24
 http://www.efsa.europa.eu/EFSA/efsa_locale-1178620753812_1211902019762.htm

 食品として安全かどうかを諮問された日本の食品安全委員会は、「単純な答え、あるいは保証を与える」以外、能はなさそうだ。