米FDA 遺伝子組み換え山羊が生産する抗凝血剤を承認

農業情報研究所(WAPIC)

09.2.7

 米国食品医薬局(USFDA)がGE(遺伝子操作)動物(またはGM動物)が生産する生物由来製品を初めて承認した。

 承認されたのは、アンチトロンビン欠損症の名で知られる非常に稀な病気の患者の血栓予防に使われるATrynなる抗凝血剤で、人間のアンチトロンビン(健康な人では自然に生成し、血液が血管の中で固まるのを防ぐ蛋白質)を乳中に生産するように指示する遺伝子を組み込まれた山羊の乳から抽出する。

 アンチトロンビン欠損症患者は、手術や出産の際に血栓を生じる高いリスクを有し、米国では5000人に1人とされる非常に稀な病気である。従って、 ATrynは、このような病気の治療に用いられる”オーファンドラッグ”に指定された。オーファンドラッグ指定は、稀な病気の患者のための医薬品開発を奨励するシステムという。

 薬剤としての安全性と効果の評価を担当した生物薬剤評価研究センター(CBER)は、これが患者に新たな重要な治療法を提供すると評価した。手術と出産の前・間・後の血栓塞栓症(TE)を予防するためにATryn治療を受けた31人の患者のうち、TEを発症したのは1人だけだった。副作用は注入箇所での多量出血などが主なもので、患者の約5%で起きた。

 他方、組み換えDNAの安全性を評価した獣医薬センター(CVM)は、この導入は7世代にわたり山羊の健康に悪影響をもたらさなかった、また、その製造企業であるGTCは、これらの山羊からの食品が食料供給に入らないように確保する適切な手続きを設けたと結論した。さらに、GM山羊が環境へのいかなる重大な影響も引き起こさないとも結論したという。

 FDA News:FDA Approves Orphan Drug ATryn to Treat Rare Clotting Disorder,09.26
 http://www.fda.gov/bbs/topics/NEWS/2009/NEW01952.html

 1頭の山羊は、年に供血者9万人分の血液から抽出される量のアンチトロンビンを作るというから、コストの面でも、量的充足の面でも、この稀な病気の患者には大きな恩恵をもたらすことになりそうだ。

 しかし、ニューヨーク・タイムス紙によると、全米人道協会は、「これは、動物が意識ある創造物というよりも人間の利用のための単なる手段であるという観念を永続させるように見える機械的動物利用である」という立場を表明している。

 このような倫理的批判は、労働者(人間)もモノとして扱うのが当然とされる世の中では、恐らく何の力も持たないだろう。ただ、捕鯨に反対しながら動物を食料生産装置どころか薬の生産装置とすることに同等の反対をしない環境活動家がいるとすれば、かれらの不条理を暴く助けくらいにはなるだろう。

 そのほか、動物が害を受ける可能性がある、動物のゲノムが薬品を汚染する、GM動物からの乳や肉が食料供給に入り込む恐れがある、動物が逃げ出し、他の動物と交雑し、遺伝子を拡散させ、予期せぬ結果を招く恐れがある、等々の懸念の声が上がっている。FDAはこうした問題にも満足な答えは与えていないようだ。

  F.D.A. Approves Drug From Gene-Altered Goats,The New York Times,2.7
  http://www.nytimes.com/2009/02/07/business/07goatdrug.html?ref=business

 実のところ、FDAがGM動物規制に関するガイドラインを出したのは、先月(09年1月)15日のことだ。このときも、薬剤承認におけるFDAの透明性の欠如や、FDAの環境リスク評価能力への疑念などを恐れる声が聞かれた。それにもかかわらず、それから1ヵ月も経たないうちの第1号承認だ。懸念が高まるのも当然だ。

  FDA Issues Final Guidance on Regulating Genetically Engineered Animals,FDA,1.15
  http://www.fda.gov/bbs/topics/NEWS/2009/NEW01944.html
  FDA ready to regulate transgenic animals,Nature News,1.16
 http://www.nature.com/news/2009/090116/full/news.2009.36.html

  しかし、今回の承認は、同種の薬のメーカーを元気づけることになる。

 オランダに本拠を置く”Pharming”の米国事業部長は、兎の乳の中に生産される遺伝性血管浮腫治療薬の承認を申請すると言う。

 別の会社・PharmAtheneは、GM山羊の乳中に生産される神経ガス中毒治療薬を開発中という(前記のニューヨーク・タイムズ紙)。

 山羊も兎も、とんだ災難だ。

 

 

 

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