GM作物は収量改善に失敗 将来の飢餓回避にも役立たない―憂慮する科学者同盟

農業情報研究所(WAPIC)

09.3.15

  米国の憂慮する科学者同盟Union of Concerned Scientists,UCS)が4月14日、遺伝子組み換え(GM)作物は、20年間の開発研究、13年に及ぶ商業栽培にもかかわらず、米国の作物収量の増加にはほとんど寄与するところがなかったという新たな報告を発表した。

 この報告は、他の農業技術と比べてのGM技術の作物収量への影響を全体的に評価した初めての報告という。米国で栽培される二つの主要GM作物であるトウモロコシと大豆に関する20以上のアカデミックな研究を精査した。

 その結論は、除草剤耐性のGMトウモロコシとGM大豆は収量を増加させなかった。害虫抵抗性のGMトウモロコシは僅かながら収量を増加させた。しかし、最近13年間の二つの作物の収量増加の大部分は、伝統的育種や農業方法の改善による、というものだ。

 報告は、人口増加と気候変動による飢餓を回避できるのはGM技術ではない、近代的な慣行育種、持続可能な農業方法、有機農法、その他の洗練された低投入農法だと言う。

  Failure to Yield,UCS,April 2009.
  http://www.ucsusa.org/assets/documents/food_and_agriculture/failure-to-yield.pdf

 この報告は、混同されることの多い”固有の(intrinsic)収量”と”オペレーショナルな収量”を峻別する。固有の収量とは、可能なかぎり最善の条件の下での作物の生産能力(ポテンシャル)を指す。オペレーショナルな収量とは、病害虫、干ばつ、その他の環境要因による損害を受けた後の生産レベルを指す。

 この研究は、米国で最も普及している三つのGM作物―除草剤耐性大豆、除草剤耐性トウモロコシ、害虫抵抗性(Bt)トウモロコシのこれら二つの収量を精査した。いずれも、固有の収量は増加させなかった、除草剤耐性大豆と除草剤耐性トウモロコシはオペレーショナルな収量を増加させることにも失敗したという。

 Btトウモロコシは、典型的な通常品種に比べて、オペレーショナルな収量が多少勝るようだ。いくつかの研究からして、殺虫剤で防除される通常のトウモロコシに比べ、オペレーショナルな収量は3〜4%増えるとするのが妥当という。これは、1996年にBtトウモロコシが商品化されて以来13年間、収量を年に0.2〜03%増加させたことになる。ところが、過去数十年の米国のトウモロコシ全体の収量は、この増加を大きく上回る年平均1%ほどの割合で増えてきた。この収量増加の大部分は、Btトウモロコシ導入以外の要因による。

 報告は、GM技術の将来性にも言及している。収量増加に成功するGM作物がないとは言えない。しかし、生化学的・生理学的相互作用の複雑さに照らし、どれほどの品種が商業的に存続可能かは疑わしい。特に多くの途上国で収量を大きく増加させることが実証されている技術を犠牲にしてGM技術をサポートするのは意味がない。最近の研究は、農薬と化学肥料の使用を最小限にする有機農業や類似の農法が、アフリカなど途上国の貧しい農民の作物収量をほとんどコストかけずに倍増させることもできることを示している。

 かくして、報告は、米国農業省や州農業機関、大学が、作物収量を増加させると証明された方法の研究・開発を増強するように勧告する。これらの方法には、近代的な慣行植物育種、持続可能・有機農業、農民が大きなコストを払う必要のない他の洗練された農業方法が含まれると言う。