二種のBt毒に抵抗性を持つ害虫 抵抗性発達を減らす”ピラミッド”手法は”万能ではない”

農業情報研究所(WAPIC)

09.7.7

 ネイチャー・ニュースによると、アリゾナ大学の昆虫学者である Bruce Tabashnik教授率いる研究チームが、通常は考えられないことだが、害虫が二種類のBt毒を生産する遺伝子組み換え(GM)棉に抵抗性を持つようになる可能性を発見した。

 昆虫は、バクテリアが抗生物質耐性を獲得するのと同様に、個々の殺虫剤に抵抗性を持つようになる可能性がある。この可能性を減らすための一つの方法が、”ピラミッド”アプローチと呼ばれ、同一害虫を標的とする複数の毒素を生産する作物を作り出す方法だ。

 現在市販されている最も一般的なピラミッド作物が、二種のBt毒を産生するGM棉である。これら二つの有毒蛋白質ー Cry1Ac and Cry2Abーは非常に異なるアミノ酸配列を持ち、害虫への結合部位も異なる。害虫が抵抗性を発達させる有力な方法は毒の結合部位を変えることだが、二つの毒は同じ部位には結合しないから、一方の結合部位を変えても、他方に対する抵抗性は持ち得ない。

 こういうわけで、このGM棉に害虫が抵抗性を持つようになる可能性は非常に小さいと考えられてきた。

 研究チームは、 米国南部の綿花畑に特に大きな被害をもたらすピンクボルワーム(ワタアカミムシガ、Pectinophora gossypiella)の多種の実験種を、毒を含む餌で育てた。これにより、Cry2Abに対して通常の240倍の抵抗性を持つだけでなく、実際の綿花畑では抵抗性の兆候が見られない Cry1Acに対しても420倍もの抵抗性を持つピンクボルワームを創り出すことができた。

 二種の毒の結合部位は異なるが、どちらの毒も同一経路を通して活性化する。この活性化に関係するプロテアーゼ(蛋白質分解酵素)の変化が、両方の毒に同時に抵抗性を持たせる道を開いた可能性があるという。

 ただし、研究者によれば、これは実験室で起きたことで、あくまでも可能性を示すにすぎない。抵抗性ピンクボルワームは、餌の中の両方の高濃度の毒に耐えることはできても、”ピラミッド”GM棉が生産する綿花莢に見出される高濃度のCry2Ab毒からは生き残れないという。

 それにもかかわらず、Tabashnik博士は、「ピラミッドは万能ではない。昆虫の進化は科学者が止められることではない」と言っているそうである。

 Pests could overcome GM cotton toxins,Nature News,7.6
 http://www.nature.com/news/2009/090706/full/news.2009.629.html