GM技術は世界を飢餓から救えるか ニューヨーク・タイムズの問いに世界の6人の識者が答える

農業情報研究所(WAPIC)

09.10.29

  「途上国で食料価格が高止まりするなか、国連は世界の飢餓人口が2009年に1億人増加、10億人を突破すると推定している。11月に予定されているローマの世界リーダーサミットは飢餓を減らし、貧しい国における農業投資を増やす方法を議題に据えた。

 次の緑の革命は何が駆るのか。遺伝子組み換え(GM)食品が世界の飢餓への答えなのか。食料生産に違いをもたらす他の要因があるのか。」

  ニューヨーク・タイム紙が、世界の6人の識者にこう問いかけた。これに対する6人の回答が、6日付の同紙に一挙に掲載されている。

 Can Biotech Food Cure World Hunger?,The New York Times,10.26
 http://roomfordebate.blogs.nytimes.com/2009/10/26/can-biotech-food-cure-world-hunger/?partner=rss&emc=rss

 それぞれの答えを簡単に要約してみよう。

 Paul Collier:オックスフォード大学経済学教授・アフリカ経済研究センターディレクター

 GM作物・食品に関する論争は政治的・美学的偏見で汚されている。気候変動はGM採用を不可避にする。特にアフリカでは、変化する気候と人口増加に対処するために、作物の適応を加速し、収量を増やさねばならない。GMは、作物の適応を早めるとともに、化学的というよりも生物学的な収量増加へのアプローチである。GM拒否は、困難な問題を一層困難にする。

 Vandana Shiva:インドにおける50万の種子保存者と有機農業者の運動・ナブダーニャの創始者

 GM技術は未だ収量を大きく増やしていない。気候変動への対応は重要だが、気候変動に耐える作物の形質を作るのにGMは必要ない。農民は、何世紀もの間、これら作物を進化させてきた。生産を増やし・資源を保全するエコロジカルなアプローチを、小農民と共同して作り出さねばならない。

 Per Pinstrup-Andersen:コーネル大学教授、2001年世界食料賞受賞者

 途上国農民が自然資源を損傷することなく食料を増産するのを助けるのは、現存する貧困・飢餓・栄養不良を減らし、将来の世代が妥当な価格で食料を入手できるように保証するために必要な行動の不可欠な要素をなす。このためには、GM技術も含む科学が中心的な役割を演じなければならない。ただし、新技術は、商業的利用の前にテストされねばならない。とはいえ、それを利用しないことの健康リスクとの比較考量も必要だ。

 Raj Patel:食料・開発政策研究所

 米国はGM農業で世界をリードしているが、アメリカ人の8人の1人が飢餓状態にある。去年は大豊作だったが、一日1900キロカロリー以下しか摂れない人が10億人もいる。今日の飢餓の原因は食料不足ではなく、貧困だ。世界の400人以上の専門家が3年以上をかけて作り上げた最近の報告・ “Agriculture at a Crossroads.” で、科学者たちは、GM作物は世界を養うという約束を実現するのに失敗したと結論した。この研究は、世界を養うには政治的変化と技術的変化の両方が必要だと示唆している。明日の農業は、もっと地域的にコントロールされ、地方的に適応する必要があり、気候変動と資源の希少性の難題に挑戦する多様なアプローチ―水の使用量が少なく、大量の炭素を貯留し、外部からの投入(石油)を必要としない、農業生態学的アプローチが必要だ。

 Jonathan Foley:ミネソタ大学の新たな環境研究所ディレクター

 現在広くプロモートされている農業の二つのパラダイムがある。ローカルで有機的なシステムとグローバル化され、工業化された農業だ。これらのどちらも、それだけでは、環境影響を減らし、食料安全保障を改善するという我々の必要を満たせない。両者からアイデアを取り、生産を増やし、資源を保全し、もっと持続可能な農業を建設する新たなハイブリッドの解決策を創り出す必要がある。精密農業、ドリップ灌漑、土壌保全のための様々の農法など、多くの有望な方法がある。水と肥料の要求を減らす新たな作物品種の作出も必要だが、この場合、GM作物の利用は、慎重なパブリックレビューを経て、慎重に行うのが適切だ。

 Michael J. Roberts:ノースカロライナ州立大学助教授

 新たなGM種子は収量増加を速め、気候変動の悪影響を相殺する可能性がある。今までのところ、GM作物は途上国における収量を上げてきたが、先進国では大した増加はなかった。収量は増えたとしても、自分の研究では、将来の基本的難題である極端な暑さへの耐性は増していない。緑の革命は驚異的市場からではなく、ノーマン・ボーローグのような人々が世界に広めた作物科学への公的投資から生まれる。ただし、作物科学研究への資金は減少の一途を辿っている。