インド GMナスの商業栽培をモラトリアム 開発企業の試験は信用できない、生物多様性への長期影響も懸念

農業情報研究所(WAPIC)

10.210

 インドのラメシュ環境相が2月9日、遺伝子操作承認委員会(GEAC)が昨年10月14日に承認した遺伝子組み換え(GM)殺虫性Btナスの商業栽培(インド遺伝子操作承認委員会 GMナスを承認 初の食用GM作物に政府は態度保留,09.10.17)を当面禁止(モラトリアム)すると発表した。環境相の決定は、GEACの承認後に広がった激しい抗議を受けたものだ。この決定の前、政府は7都市で1ヵ月にわたり、8000人が参加した公聴会を開いた。その上で、「独立の科学的研究が人間の健康や環境(インドのナス遺伝資源の豊かさを含む)への長期的影響の観点からする製品の安全性を確認する」までのモラトリアムを決めた。

 環境相によると、この決定に導いたのは、科学界の明確なコンセンサスの欠如、ナスの主要生産州(西ベンガル、オリッサ、ビハール)を含む10の州の知事の反対、安全性と試験の過程をめぐる疑念、バイテク規制独立機関の欠如、公衆の否定的感情と消費者の不安、世界で前例がないことだという。

 試験は開発者が行ったもので、いかなる独立研究所も関与していない。従って、環境相は、「これは試験の信頼性に関する正当な疑念を生む」と言う。Btナスが生産する毒(”Cry”)に対する標的害虫の感受性に関する基礎データもMahyco社が生み出したもので、抵抗性管理の専門知識で知られる政府研究所が生み出したものではない。害虫の抵抗性発達を防ぐ(遅らせる)”避難所”戦略も、「アルゴリズムやモデリングを通してではなく、単純な仮説」に基づいている。環境相は、適切にデザインされ、広く受け入れられ、独立して行われる一層の試験が必要だと指摘する。

 データと試験が十分に信頼できないのに加え、Btナス承認の生物多様性への長期影響の懸念もある。インドを原産国とするナスは3951種も収集・記録されている。環境相によると、作物学者で第一回世界食糧賞受賞者でもあるM.S.スワミナサン博士は、多数の地方品種が一種か二種のBtナスに置き換えられることの長期的意味に注意を促した。Btワタで起きたように、儲かるとなれば、農民がBtナスを選ぶのは不可避だからだ。博士は、Btナスの商業栽培を許す前に、これら在来ナスを収集し、目録を作り、既存の遺伝的多様性を保全する戦略を実施するように要請する。

 環境相によると、モラトリアム期間は新鮮な科学的研究を委嘱し、試験過程を改革するために使われる、「長期の毒性試験が必要なら、そうせねばならない、どれだけ時間がかかるかは問題ではない。急ぐ必要はない」、食料安全保障の観点からしても、Btナスを緊急に承認する必要性はない。モラトリアム期間は、独立規制機関を立ち上げ、また農業バイテクへの民間投資に関する議会審議を開くためにも使われるべきである。彼は、「インドが民間種子産業に依存すべきとは思わない。インドにとって、種子は、宇宙や核問題と同様、戦略的に重要と信じる」と言う。

 It’s moratorium on Bt brinjal: Jairam,The Hindu,2.10
 http://www.hindu.com/2010/02/10/stories/2010021058000100.htm

 Govt puts Bt brinjal in cold storage, for now,Hindu Business,2.10
 http://www.thehindubusinessline.com/2010/02/10/stories/2010021052810101.htm
 Legitimacy of safety tests cooks Bt brinjal's fate,Hindu Business,2.10
 http://www.thehindubusinessline.com/2010/02/10/stories/2010021052501600.htm

 このナスを開発したのは、米国モンサント社が26%の株を保有するMahyco(マハラストラハイブリッドシード)社である。人々が直接口にする食用作物の商業栽培の世界初の承認でGMビジネスの飛躍的発展が約束されると期待したモンサント社は、手痛い敗北を喫したことになる。