農業情報研究所農業バイテクニュース:2012年10月8日

欧州食品安全機関 GMトウモロコシ・除草剤に発がんリスクというフランスの研究を一蹴

 欧州食品安全機関(EFSA、EUの食品安全性評価機関)が10月4日、モンサント社の遺伝子組み換え(GM)トウモロコシの毒性に関するフランス研究者の最近の研究は不適切で不十分 、これが人間にとって危険であるという結論も到底引き出せないと発表した。

  Press release EFSA publishes initial review on GM maize and herbicide study
  FAQ Initial review of Séralini et al. (2012) study

 フランスのピアレビュー誌”Food and Chemical Toxicology”に9月19日付で発表された”ラウンドアップ除草剤およびラウンドアップ耐性GMトウモロコシの長期毒性”と題するカーン大学(ノルマンジー)のGilles-Eric Séralini等によるこの研究*は、ラットを使った実験でこれらと腫瘍発生・多臓器障害・早死との関連性を示したもので ある。しかし、研究発表と同時に起きた多くの科学者の反応は、この研究方法と結論は科学的検証に到底堪えられないというものであった。

 *http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0278691512005637 

 Rat study sparks GM furore,Nature News,9.25:OGM : "Le protocole d'étude de M. Séralini présente des lacunes rédhibitoires",Le Monde,9.21など

 ESFAの第一次レビューは、これら科学者たちの見解と符合する。すなわち、

 ・2年に及ぶ実験で使われたラットの種は、もともと、およそ2年の生涯の間に腫瘍ができやすい種である。従って、観察された腫瘍発生の頻度は、GMトウモロコシや除草剤による処理とは無関係な自然発生的発生率に影響される。この研究では、それが全く考慮されていない。

 ・研究方法はOECD等が開発した国際的に認められた標準的方法を遵守していない。

 ・この種の研究に関するOECDのガイドラインでは、処理された1群のラットが最低でも50匹必要とされているが、この研究では1郡あたり10匹にすぎず、これでは腫瘍発生率の差が偶然なものか、特別の処理の結果なのか、区別できない。

 ・研究の目的が全く述べられていない。研究目的は研究のデザイン、適正なサンプル規模、データの分析に使われる統計的手法の決定に不可欠で、これは発見された事実の信頼性に直接影響する。

 ・ラットに与えられた餌の構成―貯蔵方法や含まれるかもしれないマイコトキシンなどの有害物質の詳細―に関する情報が皆無である。

 ・研究者は、植物に散布するのに使用される除草剤の施用量やラットの飲み水に加えられる濃度は報告するが、消費され餌や水の量は報告していないから、除草剤へのラットの曝露を適切に評価することができない。

 ・研究は共通に使用される統計的分析方法を使用しておらず、研究開始前に方法が特定されたかどうかも述べていない。

 等々。

 要するに、結論よりも方法論のレベルで、この研究は門前払いされたわけだ。ただし、EFSFも、GM食品の長期健康影響の研究の重要性は認める。この研究についての第二次分析は10月末に発表するということだ。

 この発表を受け、地球の友・ヨーロッパは、独立ピアレビュー研究の欠陥をあげつらう前に大衆の懸念を取り上げよとEFSAを非難する声明を出した。

 Double standards from EU food watchdog(12.10.6)

 ただ、少なくともこの研究について分が悪そうだ。わざわざ腫瘍が出やすいラットをなぜ使ったのか。素人でも研究の科学性に関する疑念がわく。GM食品の長期健康影響を否定するつもりはない。しかし、これでは反GM運動への信頼も揺らぎかねない。