農業情報研究所農業バイテクニュース:2013年4月17日

塩害耐性倍増稲の実用化が近い 国際稲研究所が伝統育種技術で開発

 国際稲研究所(IRRI)が塩害のために耕作を放棄している沿岸地域の農民も使える強力な塩害耐性稲の開発に成功したと発表した。現在の塩害耐性稲は海水の半分の塩分濃度にしか耐えられないが、新しい稲はその2倍の塩害耐性を持つ。つまり、通常の海水と同じ塩分濃度の土地でも立派に育つ。土から吸い上げた塩分を葉を通して空中に排出するという。

 Wild parent spawns super salt-tolerant rice,IRRI,13.4.15

 この稲は、海水に洗われる地域に育つ野生の稲=Oryza coarctataと、栽培種=O. sativaのIR56と呼ばれる品種の交配によって生み出された。Oryza coarctataは強力な塩分耐性を持つが食用に適さない。そこでIR56との交雑種を作る試みとなったわけだが、両者の交配は極度に難しい。生まれた胚は自ら成長を止めてしまう。1990年代半ばから種間雑種の戻し交配を試みてきたが、今に至るまで成功しなかった。

 明るい兆しはは3万4000の交雑種から三つの胚を「救出」(成長が停止する前に取り出す)するのに成功したときに現れた。その中から、たった一つの胚が発芽、一つの植物体を生み出した。これを培養液に移して生き残りを確保した。これは十分に強かったから畑で育て、IR56との戻し交配に使われた。戻し交配で生まれる子はIR56のすべての形質を持ち、同時にO. coarctataの唯一の望まれる形質―塩害耐性を持つ。

 今後は農民と消費者の要求をすべて満たすように試験を重ね、4-5年以内に農家が利用できるようになることを期待するという。

 塩害に悩む世界中の農民を救うのは遺伝子組み換え技術ではなく、伝統的育種技術だったということになるのだろうか。遺伝子組み換え技術への巨万の投資は何だったのか。