農業情報研究所意見・論評・著書等紹介2015年11月22日

東京新聞大図解シリーズ「日本の米」 職業政治家たち 強い米農業構築の軌跡を知れ

  今日の東京新聞の大図解シリーズが「日本の米」を取り上げている。 

 大図解シリーズ No1126 おいしさ向上! 日本の米 東京新聞 15.11.22

 「おいしさ向上」、これは「攻めの農業」(強い農業)構築の基本中の基本です。そのためになされてきた血の滲むような努力を知ってか知らずか、すなわち「心情倫理の背後にあるものの内容的な重み」を知ることもなく、現今の「職業政治家」(マックス・ヴェーバー 職業としての政治 岩波文庫 1980年)たちは、今こそ「攻めの農業」とほざいている。

 山口二郎氏は、「日本の農業は、ある意味ではすでに極めて強力である。私が子どもだった四十数年前は、減反政策も始まっていたが、小学校の社会科で食料増産の歴史とそれを支えた米や麦の品種改良をしっかり教えていた。公的試験研究機関による絶え間ない品種改良の結果、いまでは北海道がおいしい米の大産地となった。気候のハンディを克服して安定的な食料生産を実現したことこそ、強い農業である。

 そうした体質強化をもたらした背景には、日本における学問研究の厚みがあった。農作物の品種改良は、長い時間をかけ、試行錯誤の結果実現してきた。一つの成功の陰には何百、何千という失敗があった。学問研究の世界では、目先の結果を出すことにこだわらず、基礎的な研究をコツコツと積み上げることを美徳とする文化が存在した」と言う(TPP論議の憂鬱 “攻めの農業”は空虚 法政大学教授 山口 二郎 日本農業新聞 2015.11.16)。

 この大図解は、どこでどんな美味しい米が作られているかだけでなく、こういう努力の跡を知る機会として利用してほしい。そのためには、最低限、ジャーナリスト・酒井義明氏の名著ともいうべき『コシヒカリ物語 日本一うまい米の誕生』(中公新書 1997年)ぐらいは熟読してもらいたい。これは、「攻めの農業」を叫ぶ「職業政治家」たちの責務である。さもなければ、彼らの「十中八、九までは、自分の追っている責任を本当に感ぜずロマンチックな感動に酔いしれた法螺吹きというところだ」(ヴェーバー 前掲、102103頁)。

 ついでに、「ロマンチックな感動に酔いしれた法螺吹き」と聞けば、今真っ先に思い浮かぶのは安倍首相の顔である。「日本は瑞穂の国です。息をのむほど美しい棚田の風景、伝統ある文化。若者たちが、こうした美しい故郷を守り、未来に『希望』が持てる『強い農業』を作ってまいります 」(施政方針演説 2013年3月)。こんな大法螺吹きながら、それが法螺とは夢にも思わない。「職業政治家」たち、このヴェーバーの書も座右に置くべきだろう。

 その帯にはこう書かれている。

 「日本一うまい米」として評判のコシヒカリは、太平洋戦争末期から戦後の食糧難時代に作られた品種である。食糧増産が至上命題で食味など眼中になかった時代に、なぜ最高の品種が生まれたのか。コシヒカリには多くの不思議がある。病気[いもち病―農業情報研究所注]に弱く、 倒れやすい[機械化に不適―同]欠陥品種として、あわや廃棄処分という場面もしばしばあった。なぜこのような品種が史上空前の栽培面積を誇るようになったのか。奇跡的誕生から全国制覇に至る軌跡とは。