農業情報研究所意見・論評・著書等紹介2015年3月25日

農政審が基本計画答申 目標・施策は検証されたのか 農業・農村・地域社会の危機は深まるばかり

 農業・農村所得倍増目標など「粗すぎ」、「まともな論評に値しない」と言う生源寺眞一農水省食料・農業・農村政策審議会会長・名古屋大大学院教授が24日、「今後10年間の農政の方向性を示す新たな食料・農業・農村基本計画を林芳正農相に答申した。食料自給率45%(カロリーベース)の達成を目指す他、飼料用米の生産拡大、担い手への農地集積、農業・農村所得の増大など自公政権が掲げる農政改革の柱を具体的な指標や道筋を含めて盛り込み、中長期的な政策として安定運営を目指す。月内に閣議決定した後、同省は生産現場への周知を進め、計画実行に移す」そうである(所得倍増へ道筋 農地集積 担い手8割 農政審が基本計画答申 日本農業新聞 15.3.25 1面)。

 この基本計画(参照:食料・農業・農村政策審議会(平成27年3月24日)配布資料)には、生源寺会長を含む多くの「識者」(学識経験者)が実現を危ぶみ、あるいは問題外とも見る以下に示すようなさまざまな目標が盛り込まれている。

 @食料自給率(カロリーベース)45%にまで上げる、それを実現するための各種農畜産物生産努力目標

 A現在(2014年)452万fで趨勢では10年後420万fに減る農地を440万fに維持、

 B「担い手」(認定農業者、将来認定農業者となる見込まれる認定新規就農者、将来法人化して認定農業者となることも見込まれる集落営農)への農地集積割合を現在の5割から8割に高める、

 C現在124万人で趨勢では87万人に減るはずの60代以下農業就業者少を101万人に維持、同じく31万人から30万人に減るはずの40代以下農業就業者を44万人に増やす、

 D農業所得を現在の2.9兆円から3.5兆円に、加工・直売、輸出、都市との交流などによる農村地域の関連所得を1.2兆円から4.5兆円に増やす。それによって農業・農村所得をほぼ倍増させる。

 全般については拙稿:第二次安倍政権の農政改革を問う―米政策見直し・構造改革と農業・農村・農民― 世界 2014年4月号を参照されたいが、これらの目標の実現を疑わせる研究はいくらでもある。

 例えば@の2025年生産努力目標は、米872万d(2013年に比べて+0)、飼料用米110万d(同+99)、小麦95万d(+14)、ダイズ32万d(+12)、ばれいしょ250万万d(+9)、野菜1195万d(+160)、果実309万d(+8)、生乳750万d(+5)、牛肉52万d(+1)、豚肉146万d(+0)などとされているが、JC総研客員研究員・姜 薈氏の推計によれば、資材高騰やTPPの不安の影響もなかった2000−2005年のデータに基く推計でも、小麦を除くすべての品目で生産量は2015年から2020-25-30年にかけて大幅に減少するとされている。米は2030年には670万dにまで減り、稲作付け農家数は5万戸を切り、地域コミュニティが存続できなく地域も続出する。

 TPP、農業・農協「改革」の連鎖(www.jc-so-ken.or.jp/pdf/agri/tpp/20.pdf) JC総研所長・東京大学教授 鈴木宣弘 2014年9月 p.5 表1

 大幅増産を目ざす飼料用米についても、「需要先となる畜産部門の生産が大幅に縮小していくと見込まれるために、生産しても受け皿が不足する事態が心配される(鈴木宣弘 「新農政」は新基本法の根本に合致しているか 『農業と経済』 2015.3 臨時増刊号(食料・農業・農村基本計画の見直し) p.27)

 Aについては、例えば大西敏夫 「農地は確保され高度利用されてきたか」 同上『農業と経済』 、Bについては安藤光義 「農業構造変動とその要因」 同上(「8割」集積は中山間地域切り捨てによる「農地総量の減少の結果としてではないだろうか」、p.74)、Dについては生源寺眞一 「農業・農村所得を倍増?」 『農業と農政の視野』(農林統計出版 2014.12) p.196−、等々をあげておこう。 

 それにもかかわらず、審議会は、「強い農業」と「美しく活力ある農村」の創出を目指す安倍首相の言いなりに動く農水省が策定した基本計画をすんなりと認めたしまった。これらの目標を実現するための農業・農協「改悪」(裏でTPPを睨んでいる)の諸方策も含めてである。官邸主導の農政に抗し、これらの目標と方策を検証すべき審議会がである。日本の農政を正道に乗せる機会が失われた。日本の食と農と暮らし、地域社会の危機は深まるばかりである。