農業情報研究所意見・論評・著書等紹介2015年6月25日

 

日経新聞 耕作放棄地課税強化で「ニセ農地」をあぶり出せ 証拠しらべもせずに魔女裁判

 

 

  政府の規制改革会議が耕作放棄地の課税強化を答申したことに意を強くしたか(規制改革会議 耕作放棄地への課税強化答申へ 究極の高齢農家いじめ)、日本経済新聞がにわかに魔女狩りを思わせるような「耕作放棄地狩り」に乗り出した。

 

 622日付の編集委員の手になる「「ニセ農地」をあぶり出せ 耕作放棄地を課税強化」という記事は、「農業をやる気がないのに、農地を持ち続ける人がいる」「農地の課税負担が軽いことが、それを可能にしている」「農地を持ち続ける狙いは、いつか転用することにある」「それが、やる気のある農家への農地の集約を邪魔している」と、耕作放棄地を持つ農家を非難する。

 

 そして、24日付の「耕作放棄地、100自治体の9割が毎年確認せず 課税滞る」なる記事は、「耕作放棄地の多い100市町村の9割近くが、税法が定める毎年の土地利用状況の確認調査を行わず、適正に課税できなくなっていることが日本経済新聞の調査でわかった。実態を把握できないため耕作放棄地も課税上は固定資産税が軽い農地と見なされ、持ち主が土地を手放さないケースが多い。農業の生産性を高める大規模化を阻む一因となっている」、「確認の結果、耕作放棄地が農地から平均評価額が農地の107倍の雑種地に変われば、持ち主は税負担増を避けようと売却する可能性が高まる。現況確認がおざなりなため耕作をやめた土地も農地として格安の税金で持ち続けられる。「農地の取引が進まず、新たな農業の担い手が農地を確保できずにあきらめてしまう悪循環が続いている」と農業に詳しいエムスクエア・ラボの加藤百合子社長は話す」と追い打ちをかける。

 

 そんなに言うなら、そんな耕作放棄地がどれほどあるのか、専ら転用待ちの放棄農地がどこにどれほどあるのか、「農業の生産性を高める大規模化」に役立つ放棄農地がどこにどれほどあるのか、自分で「現況確認」してみるがいい。

 

 農水省の耕作放棄地の現状と課題によれば、耕作放棄地(面積)のうち「人力・農業用機械で草刈り・耕起・抜根・整地を行うことにより耕作することが可能な土地」が29%、これに「草刈り・耕起・抜根・整地では耕作することはできないが、基盤整備を実施して農業利用すべき土地」を加えても52% である。あとは「森林化・原野化している等、農地に復元して利用することが不可能な土地」である(平成20年現在)。

 

 大抵の耕作放棄地は5年も放置すれば灌木混じりの原野に遷移する。上記調査から5年以上を経た現在、「森林化・原野化している等、農地に復元して利用することが不可能な土地」の比率はもっと増えているだろう。

 

 

(上段は山間地域、下段は中間地域)

 

 税が軽いために持ち主が手放さず、よって大規模化や新たな担い手の農地確保を阻んでいるような放棄農地は、最大限に見積もっても全放棄農地の半分にもならないだろう。あとの放棄農地は「平均評価額が農地の107倍の雑種地」ではなく、ほとんど経済的価値がない「山林・原野 等」である。

 

 第二に、2010年農林業センサス農業地域類型別報告書によれば、全耕作放棄地39.6万㌶のうちの6.2万㌶(15.7%)が山間農業地域、15.7万㌶(39.7%)が中間農業地域にある。半分以上(55.4%)が中山間農業地域にあることになる。残り9.5万㌶ (24%)が平地農業地域、8.2万㌶(21%)が都市農業地域にある。東北地方、北陸地方、中国地方、山陰地方、四国、九州では、中山間農業地域の耕作放棄地が60∼75%に達する。 大半の耕作放棄地は、「担い手」にこと欠き、数集落に1人ぐらいはいるかもしれない「担い手」も手を引くような悪条件の土地を抱える「中山間地域」にあるということだ。

 

 いつか転用する」ために放棄農地持ち続ける農家があるだろうことは認める 。が、それは多少の宅地・商用地需要が見込める都市農業地域か、幹線道路(国道)沿いのごく一部の農家に限られる。これまでに何度も指摘してきたが、大半を占める中山間地域の放棄農地は、高齢化と後継者の欠如のために耕作ができなくなり・代わって耕作する「担い手」もおらず・ たまたまいても引き受けることができないような悪条件の農地である。こんな土地への転用需要もあるはずがない(これは筆者の実際の見聞から導かれる結論であり、単なる憶測ではない)こんな農地をあぶり出して何になる?(ローソンさん、こんなところでも店出しますか?)

  

 現場検証を怠り、こんな実態も知らず、耕作放棄地・放棄農地所有農家をおしなべて悪しざまに言うのはマスコミの質の低下を表すと言わざるを得ない。今なすべきことは、「課税強化」で「ニセ農地」をあぶり出すことではない。耕作放棄を防ぐ、耕作放棄地を農地として再生する、他の活用法を模索する、そういう現場の努力を後押しすることだ。