農業情報研究所意見・論評・著書等紹介2015年5月19

農地集積が遅滞 政府は経済的強制へ ここでも進む専制国家への道

 安倍政府の農政改革の大黒柱をなす担い手農家への農地集積が思うように進まない。

 19日の自民党農業基本政策検討プロジェクトチーム会合での農水省の報告によると、改革元年の2014年度に農地中間管理機構を通して貸し出された農地面積は目標の14万fの2割を僅かに上回る3万1000fにとどまった(農地バンク利用実績、目標の2割 14年度3万1千ヘクタール 日本経済新聞 15.5.19)。

 農水省は、これは県庁のOBやJA関係者が役員の多数を占める機構が「デベロッパー(開発者)としての意識」を欠き、「民間ノウハウも活用」していないからだとし、「抜本的な意識改革と役職員の体制整備」を柱とする改善策を講じる。「企業経営者や農業法人経営者の参画を促すため、各県の機構に対し、役員体制の再構築と役員名簿の公表を求める」。

 さらに、16年度以降は農業振興関係予算を農地集積の実績を挙げた都道府県に優先的に配分、機構による農地集積の実績に応じて補助金に差をつけることで現場にハッパをかけ、「14年度の農地集積の実績に基づいて都道府県の機構をランク付けし、公表する」ことも考えているという。

 成績の悪い機構は、まるで罪人のごとしだ。それだけではない。「農地の貸し手対策として、耕作放棄地には固定資産税などの負担を重くすることを検討中。農家が「転用を期待し農地を貸すことに消極的になっている」として、農地転用利益の地域農業への還元についても検討を進めるとしている」そうである(農業振興予算 集積実績で配分に差 農地バンク格付け 農水省方針 日本農業新聞 15.5.19)。これも、農家を悪者に見立てた経済的強制による「土地収奪」(ランド・グラビング)の勧めだ。アフリカ諸国が外国企業に力を借りた近代的大規模農業の創出のために小農から土地を取り上げたのと変わらない。

 だが、とりわけ中山間地では、転用どころか、「担い手」も尻込するような(効率的農業の観点からすれば)劣悪な農地(傾斜地の小区画農地)が支配的である。集積が進まないのは、機構のせいでも、農家のせいでもない。強制取り上げ、非協力農家の「粛清」は、農業の発展には決して結びつかず、農民と農村の破滅を引き起こすだけだろう。

 (山間地放棄田の一例)

 

 耕作放棄も、転用「期待」も、そもそも農家に原因があるわけではない。農業・農民軽視の国の政策、専ら経済成長のために彼らが農民として生きていく環境を作るどころか壊してきた政策の帰結である。農地集積加速に向けての「改善」は、そうした政策の上塗りだ。ただし、これは単なる上塗りではない。民主主義への挑戦だ。「粛清」は民主主義国家においてはあるまじきものだ。他の分野と同様、ここでも「専制」がまかり通る。それを「専制」と意識することもなく、「粛々」と進めるところがなお恐ろしい。