農業情報研究所意見・論評・著書等紹介2015年6月12日

日本酒一般に保護地理的表示?国際基準との整合性は?

  国税庁が国産米を使って国内で醸造された清酒を「日本酒」なる保護地理的表示(PGI)産品に指定する方針を固めたそうである。これにより外国で外国産の原料を使ってつくる酒を「日本酒」と名乗ることを防止、日本酒の輸出促進につなげる。クールジャパン戦略の一環という。

 これが日本酒の輸出増大と米消費の拡大につながるならば結構なことだ。しかし、下手をすれば外国に足をすくわれる恐れもある。

 WTO協定*の定めでは、地理的表示は、その与えられた品質、世評、またはその他の特徴が地理的起源に帰せられる一加盟国の領土、またはその領土内の一地域または地方を原産地とする産品であると確認する表示である。

 *知的所有権の貿易関連側面に関する協定第3節第22条 地理的表示の保護
  
https://www.wto.org/english/docs_e/legal_e/27-trips_04b_e.htm#3

 EUにおいては、広い意味の地理的表示として保護原産地呼称(PDO)と保護地理的表示(PGI)の二種類がある。

 PDOとは、@特定の地域・場所を原産地とし、Aその品質または特徴が、基本的には、あるいは専ら固有の自然的・人的要因をもつ特殊な地理的環境及びまた限定された地理的区域内で行なわれる生産・加工・調整から生じる産品であることを示すために使われる地域、特別の場所の名称である(例外的に国名も許される)。

 PGIは、、@特定の地域、場所、国を原産地とし、Aその特別の性質・世評・その他の特徴が地理的起原、及び限定された地理的区域で行なわれる生産・加工・調整のいずれかから生じる産品を示すために使用される。

 いずれにせよ、EUで保護産品としての指定を受けるためには、少なくとも次の諸点に関する明細が必要になる。

 1)産品の名称、

 2)原料、場合によっては主要な物理的・化学的・微生物学的・感覚(味覚)的な特徴を含む産品の説明、

 3)地理的区域の定め、

 4)産品が当該地理的区域に起原をもつことの証明、

 5)産品取得の方法の説明、

 6)地理的環境との関連性の詳細、

 7)監査組織の詳細、

 8)特別の表示の詳細

 国税庁が考えているのは、日本という国が原産地なのだから、当然後者のPGIだろう。しかし、上の表をどう埋めるつもりか。国産米を原料とし・国内で生産されている日本酒も、その性質・世評・特徴は「地理的起原」や「生産・加工・調整」の仕方により千差万別である。全国の蔵元が、独自の原料と生産方法を工夫して、他の蔵元に負けない独自の最高の酒をつくろうと日夜腐心している。

 そのとき、国は、国産米を使い・国内で生産される日本酒「一般」の「特別の性質・世評・その他の特徴」はいかなるもので、それが「地理的起原」、あるいは生産・加工・調整の方法 とどう関連しているのか、どう説明するつもりだろう。

 経済連携協定を交渉中のEUは、そんな曖昧な地理的表示は認めない恐れがある。アメリカは、そんなのでも地理的表示として保護されなら、アイダホ・ポテトやフロリダ・オレンジにも同等な保護を認めよと言い出すかもしれない(EU食品品質政策の危機、米国が地理的表示をWTO提訴,03.5.17)。あるいは、カリフォルニア米で生産した米国産日本酒を日本酒として認めないのはWTO協定 違反とWTOに提訴するかもしれない。中国も何を言い出すか・・・。

 日本酒を地理的表示で保護しようというなら、国内各地で生産される日本酒の多様性を考えて、保護原産地呼称制度を採用すべきだろう。その名に値する名酒は全国津津浦浦に存在する(獺祭は小生の口に合わないが)。それはフランス・ブドウワイン産業や酪農=チーズ産業の最強の保護手段となっている。