公取が農協監視強化で安倍・小泉農政を後押し 資材価格引き下げ国際競争力強化という絵空事

農業情報研究所意見・論評・著書等紹介2016年4月11日:農政新時代の公取

4月12日追記

   「公正取引委員会は、農業資材の購入トラブルを解消するため監視態勢を強化する。農家からの通報窓口を新設し、悪質なケースには是正措置をとる。農機や肥料で圧倒的シェアを誇る農業協同組合(JA)グループと、ホームセンターなどで安い農業資材を買う生産者とのトラブルが相次いでおり、国際競争力を高めるため、農家が安い製品を入手できるようにする」そうである。 

 農業資材の値下げ促す 公取委、農協監視へ通報窓口 日本経済新聞 16.4.10

 「他から指揮監督を受けることなく独立して職務を行うことに特色」があるという公正取引委員会が、痛々しささえ感じる進次郞「農政改革」慮ったわけではなかろう(と信じる)。農協が独禁法の定める「優越的地位の乱用」により農家に高価な農業資材の購入を強要しているのが事実なら、農業資材の供給自体に支障が生じないかぎり(ホームセンターが全ての農家からのすべての資材の需要に応えられるとは思えないが)、「農家が安い製品を入手できるようにする」のは結構なことだ。それによって生産コストを引き下げ、競争力を高めるのは悪いことではなく、必要なことでもある。。

 ただ、それによって国産農産物の「国際競争力」を高め、TPPにもびくともしない「強い農業」を創ろうという「農政改革」を後押ししようというなら、これは全くのお門違いだ。国産農産物と外国産農産物の国際競争力のギャップは、生産資材価格引き下げや経営規模拡大、圃場区画拡大基盤整備などの小細工で埋まるものでは決してない。このギャップは、なによりも「土地賦存量」という天賦の埋めがたいギャップから来るものだからだ。

 実際、細切れの何十枚もの田んぼを合わせて30㌶の田んぼを耕す日本の最大規模稲作経営でも、1枚30㌶の田んぼを合わせて数千㌶も持つ米国の稲作経営には逆立ちしても勝てっこない。日本の主食用米と競合するカリフォルニア米中粒種の国際価格はトン745ドル(今年3月平均)、円を1ドル=120円としてもトン8万9400円だ(国際米価:タイ輸出価格の推移と国際比較)。60㌔に換算すれば5364円、日本主食用米の平均生産費(2014年):15416円の3分の1ほどだ。最大規模の15㌶以上経営の生産費:11558円と比較しても半分以下である。さらに、進次郎改革で農機具費2751円、肥料費1087円、農薬費870円、計4708円を半額にしても、平均生産費は13062円に減るだけだ。日本の米生産費を米国産レベルにまで引き下げるにはどうしたらよいのか、想像もできない。

 牛肉だってそうだ。

 日本で比較的安い交雑種の部分肉仲間相場(卸売価格、2015年3月-2016年月平均)は、ばらがキロ1500円ほど、かた・ももは2300円超、サーロインは4960円だ(農畜産業振興機構)。米国産の輸入価格(2015年)を見れば、生鮮・冷蔵品のばらが766円、かた・うで・ももが992円、ロインでも1698円だ。38.5%の関税がなければ、各々553円、716円、1226円になる。さらにオーストラリア産となると、各々711円(31.5%の関税を引くと541円)、 765円(同582円)、1509円(同1148円)だ。日本産牛肉価格は米豪産の2~4倍にもなる(財務省貿易統計より算出)。資材価格引き下げでどうしてこの差が埋められようか。

 国境を取り払い、ひたすら「強い農業」を追い求める安部・小泉農政は日本農業・農村の死を早めるだけである。公取は、貿易自由化による安価な外国品の利用を武器に国産品を買いたたくスーパーの商慣行の監視をこそ強化すべきだろう。

  参考までに

 そもそも農産物貿易の自由化(ガット=WTO、さまざまな二国間・地域貿易協定)でグローバル化が進んだ今時、農業の拡大再生産(成長)が続けられるのは豊かな土地資源に恵まれた輸出大国の米国、カナダ、オーストラリア(最近は干ばつの連続で陰りが見られるが)か、中国・ブラジル・ウクライナ・ロシアのような新興国だけである。80年代半ば以降、西欧一の農業大国フランスの拡大再生産は完全にストップ、日本は縮小再生産(マイナス成長)に転じている(下図参照) 

 4月12日追記

 今日の日本経済新聞によると、

 ”330日、自民党本部で開いた農林族幹部による非公開会合「インナー」。党農林部会長、小泉進次郎(34)の突然の発言が場の空気を変えた。
 「農協別の農薬の価格差を調べた。これから公表したい」
 血相を変えた参院議員の野村哲郎(72)が待ったをかけた。「価格差にはそれぞれ理由がある。分析をしないで出せば数字が独り歩きする」。小泉は聞き入れなかった。
 青森1621円、山形860円――。その後の部会小委員会で公表されたリストでは、同じ殺虫剤でも農協別の価格差は最大2倍。「高い農薬を買わされていた青森や秋田の農家は驚くだろう」。リストをみた農林族の西川公也(73)も思わずつぶやいた。”

 ”環太平洋経済連携協定(TPP)の大筋合意を受け日本の農政が岐路に立っている。世界市場で成長の道をみつけるか、関税障壁を失い国内市場を侵食されるか。「攻めの農林水産業に転換するための体質強化など万全の措置を講じる」。首相の安倍晋三(61)は7日に審議入りした衆院TPP特別委員会で訴えた。”

 だが、”「農業協同組合(JA)とメーカーが結託し、補助金にぶらさがる構図が農業の競争力を奪ってきた」。小泉は訴える。多くの農家は価格が高くても慣習によりJAが仕入れた農機や資材、農薬を買わざるを得ない。
 農林水産省によると、コメ60キログラムを生産する費用は韓国が8500円、日本は1万5000円。内訳は
農機具が韓国の5倍、肥料は2倍、農薬は3倍だ。小泉は明るみに出てこなかった「不当な価格や取引」の実態を公表。資材調達での自由競争を促そうともくろむ。”

 とのことである。

 レクサス農機は必要か 暗闘、農政改革(ルポ迫真) 日本経済新聞 16.4.12

 そこで、日本の主食用米平均生産費に含まれる農機具費2751円を5分の1の550円、肥料費1087円を半分の543円、農薬費870円を3分の1の290円に置き換えてみた。合わせて4708円のこれら費用は1383円にまで減るが、それでも平均総生産費15416円は3325(4708-1383)円減って12091円に下がるだけだ。米国どころか、韓国の8500円(それ自体、どう計算されたのか、調査方法は日本と比較できるようなものなのか、怪しげだが)にも遠く及ばない。何が「攻めの農林水産業に転換するための体質強化など万全の措置」なのか。資材価格をどんなに引き下げようと、関税障壁を失い国内市場を侵食されるばかりである。これぞアベシンノミクス、まさに痛々しささえ感じる進次郞「農政改革」だ。しかし、自分の無知を恥じることも知らない厚顔無恥の若造に誰が憐みを感じようか。