安倍首相の参院選地方遊説 TPPの農産物輸出拡大効果強調も所得増大効果ゼロでは意味がない

農業情報研究所意見・論評・著書等紹介2016年6月11日

  参院選に向けた地方遊説が始まった。

 地方、とりわけ農業県では、TPPが大きな争点になる。TPPの農業への悪影響を否定する政府・自民党の必死の”説明”にもかかわらず、地方・農業者の不安は一向に収まらないからだ。

 例えば山形県、県内JAグループの政治運動組織「県農協政治連盟」は30日、特定候補者を推さずに自主投票とすることを決定した。農家の間にはTPPに対する不安が強く、JAグループ出身で自民新人の月野薫氏ではなく、県内野党統一候補で無所属元職の舟山康江を推す意見も多く、意見をまとめきれなかったという(夏の参院選、県農政連は自主投票 2氏の推薦願、意見まとまらず 山形新聞 16.5.31)。青森県でも同様な動きがある(県農政連参院選対応 各農協に判断委ねる 東奥日報 16.6.7)。

 かくては改憲に必要な議席の獲得も危ういと思ったか安倍首相、TPPが農林水産物輸出拡大に効果があるとの発信を強めている。首相は8日、甲府市で「TPPを起爆剤としながら2020年(輸出目標)を前倒しし、1兆円を達成していく」とぶった。9日には山形市で、「1年前倒しで達成していく」と、19年の達成に意欲を示した(TPP輸出効果強調 検疫条件など課題も 首相 日本農業新聞 16.8.11)。これを受けて森山裕農相も10日の閣議後記者会見で、19年達成は「可能だと考えている」とし、米の輸出拡大が鍵を握るとして重点的にてこ入れをしていく方針も示した(日本農業新聞 16.6.11 3面)。

 しかし、こんなことでTPPに対する農家の不安が払拭できるのだろうか。輸出拡大も所得拡大につながらなければ意味がない。一部農家の期待は膨らむかもしれないが、大方の農家の疑心暗鬼は消えない。

 前倒し発言は、農林水産物輸出がこの3年間記録的に増加、2012年の4497億円から15年の7561億円にまで増えたことを受けたものだろう。このペースでいけば、前倒し達成も不可能ではない。しかし、それが農業・農家所得の増大にどれほど結びつくのだろうか。

 15年の農林水産物輸出額・7561億円のうち、農産物(畜産物を含む)の輸出額は4471億円にすぎない。水産物が2418億円を占め、しかも、農産物の半分(2245億円)は、「嗜好食品」など農家というより食品産業(工業)の生産である。農家・農業所得に直接結びつく輸出はごく僅かである。

 その上、先日も述べたように、輸出拡大の何倍もの輸入拡大で国産農産物市場は狭まるばかりである(TPPで土台が崩れた安倍追随自民党農政  参院選農業公約発表)。これを輸出有望品目とされる牛肉、米、果実で確認してみよう。 

 

 2012年から15年にかけ、牛肉輸出額は58億円から110億円へと52億円増えた。しかし、輸入は2206億円から3379億円へと1173億円も増えた。輸入増大と輸出拡大の差、1121億円の国産牛肉市場が失われたことになる。TPPが実現すれば、この差は開くことはあっても縮まることは考えられない。米、果実も同様、米輸出は10億円から22億円に倍増したが、輸入は24億ドル増加、差し引き13億円の国産米市場喪失、輸出がほぼ倍増した果実も990億円もの国産市場喪失だ。

 つまり、輸出目標前倒し達成も、全体としての農業所得増大効果はゼロに等しいということだ。生産コスト削減による所得増大策も米国、オーストラリア、ニュージーランドが相手では無効、TPPとなれば所得増大の夢など完全に吹き飛んでしまう。TPPには退場願うほかないのである。だが、民進党も、文句は言っても原則的にはTPP賛成、所詮、「自主投票」しかないのだろうが。