肥料・農薬価格引き下げはTPP対策にならない 本格化する政府・自民党の農業・農村潰し

農業情報研究所意見・論評・著書等紹介農業・農村・食料 2016年9月5日

 政府・自民党が農業生産資材引き下げに躍起になっている。生産資材価格引き下げは結構なことだが、TPP対策としては無効であることは何度か述べてきた。

  公取が農協監視強化で安倍・小泉農政を後押し 資材価格引き下げ国際競争力強化という絵空事,16.4.11など

 しかし、夏休みも明けて今週、自民党は性懲りもなく、「生産資材価格の引き下げなど、環太平洋連携協定(TPP)の中長期的対策と位置付ける農政改革の議論を再開する」そうである。「資材価格などを議論する農林水産業骨太方針策定プロジェクトチーム(PT、小泉進次郎委員長)は6日、参院選後初の会合を開く。小泉氏は国内の肥料や農薬の価格が韓国に比べ高いことを問題視しており、同日は韓国の資材について独自調査した日本農業法人協会からヒアリングする」、「小泉氏はPT再開を前に資材の販売で大きな役割を担うJA全農の改革が「本丸」と強調する。5日にはJA全中の奥野長衛会長らJAグループ代表と会談し、改革への協力を求める考え」だという。

 資材価格の議論再開 収入保険制度設計も TPP対策で自民 日本農業新聞 16.9.5

 TPPに不安をかかえ、秋の国会のTPP審議を注視する農業者がこんなことで騙されるとは思わないが、TPP対策としての肥料や農薬の価格引き下げの無効性を改めて確認しておく。

 先ず、肥料や農薬の価格引き下げの生産コスト引き下げ効果を確認しよう。下の表は、データが得られる最新年度である2014年の米生産費(円/60㎏)の費目構成をみたものである。

 

全国 北海道 都府県 15㌶以上
種苗費 421 152 447 226
肥料費 1,087 870 1,107 996
農業薬剤費(購入) 870 835 872 778
光熱動力費 582 632 576 563
その他の諸材料費 207 348 193 185
土地改良及び水利費 508 565 501 435
賃借料及び料金 1,436 962 1,480 623
物件税及び公課諸負担 263 268 263 182
自動車費 438 219 458 366
農機具費 2,751 1,900 2,829 2,321
生産管理費 44 48 44 42
労働費 4,035 3,091 4,127 2,504
費用合計 13,155 10,299 13,421 9,516
副産物価額 123 222 111 112
生産費(副産物価額差引) 13,032 10,077 13,310 10,317
資本利子・地代全額算入生産費 15,416 11,957 15,742 11,558
肥料・農薬費/2 979 856 990 887
肥料・農薬費を半額にした生産費 14,438 11,108 14,753 10,672

 肥料・農薬費は全生産費の12%(全国・都府県平均)から15%(15㌶以上作付層)を占めるにすぎず、その価格引き下げによる生産費引き下げ効果が大したものでないことは一目瞭然である。仮に肥料・農薬費が半減したとしても、生産費引き下げ効果は6、7%にとどまる。政府は構造改革(農地集積)によって米生産費を9600円/㎏に引き下げる目標を掲げているが、肥料・農薬費を半減させた最大規模(15㌶以上)層でもこの目標に遠く及ばない(1万672円)。

 この表にもみられるように、生産費を大きく左右するのは、利用可能な土地面積で大きく変わる労働費、農機具費、賃借料である。中山間地が多い都府県と北海道、あるいはごく少数の最大規模層との大きな差がそのことを示唆している。そして、その後者の生産費さえ、TPPで輸入が増え・国産主食用米と競合する米国産米の輸出価格の3倍にもなる(下表)。

カリフォルニア中粒種の輸出価格(2016年、FAO)
ドル/トン ドル/60㎏ 同円換算
1月 775 46.5 5501
2月 770 46.2 5317
3月 745 44.7 5054
4月 691 41.5 4564
5月 658 39.5 4306
6月 610 36.6 3860
7月 606 36.4 3784

 TPP対策としての資材価格引き下げなど、まさしく焼石に水である。TPPを迎え撃つための国際競争力強化は絵空事にすぎない。こんな単純明快な事実も見過ごし、資材価格引き下げを「新農政」の切り札のように言い募る小泉進次郎、農業経済学の素養を全く持たないこんな男に農政をリードする資格はない。大事なことは、農産物価格のとめどもない下落を防ぐことであり、そのために生産者の協同(組織)による価格交渉力を強化することである。日本稲作のこれ以上の衰微、従って農村・地方の衰退をとめるには農協潰しとTPPを阻止するしかないのである。「攻めの農業」で輸出が増える?それ以上に輸入が増える!

 参照:拙稿 農業成長産業化という妄想――「安倍農政」が「ヨーロッパ型」農業から学ぶべきこ  世界(岩波書店) 2016年9月号