低コスト目指すなら「アグロ・エコロジー」 「肥料・農薬価格引き下げはTPP対策にならない・・・」への補論 

農業情報研究所意見・論評・著書等紹介農業・農村・食料 2016年9月18

 先日(95日)、肥料・農薬価格引き下げはTPP対策にならない 本格化する政府・自民党の農業・農村潰しと書いた。その趣旨は、肥料・農薬価格の引き下げではTPPによって国内市場に溢れ出るであろう外国農産物に対抗できるほどの生産コスト引き下げは到底無理ということであった。

 そこで言い忘れたことがある。低コストで、外国産品に負けない競争力を持つ農業を本当に築こうというなら、その見本はフランスをはじめとするヨーロッパ諸国にある。「アグロ・エコロジー」である。日本は、なぜその道を追求しないのか、ということである。

 フランスにおける「アグロ・エコロジー」開発についてはこのHPでも何度か伝えたが、例えば「土壌保全、飼料自給、輪作の多様化、諸生産のコンビネーション(農業-林業-牧畜)、資材投入の大きな削減、水使用の削減、省エネ、エネルギー生産とバイオマス活用などがテーマ」となるその開発は、資材価格引き下げではなく資材利用の削減などによって生産費を減らす「低コスト」農業を追求しようとするものだ(フランス 「アグロ・エコロジー」普及を担う「「経済・環境利益集団」(GIEE)設立へ,13.5.17)。

 これも先に紹介した欧州議会の研究(小規模経営の方が持続的で農業成長に寄与 ヨーロッパ農業モデルに関する欧州議会の研究,16.6.26)も、EUには「集約化」、「専門化」(モノカルチャー化)」、「機械化」、「大規模化」という古典的戦略と異なる新たな戦略を採用した様々なスタイルの中小規模家族農業(21世紀の「ヨーロッパ農業モデル」)が現れ、持続しているとした上で、そういう農業の代表例の一つとして「アグロ・エコロジー」を取り上げている。

  この研究は、アグロ・エコロジーは、「農場内の自然資源を最大限に活用することで肥料・農薬などの生産資材の外部依存を減らし、同時に環境保全にも貢献する低コスト農業である」と明言する。研究のアグロ・エコロジーに関する部分(31頁)を引用すれば次の通りだ。

 「アグロ・エコロジーとは、農場内資源の一部をなす自然資源に可能な限り依拠することを目指す戦略を表す。これは、生産資材・要素の外部依存度を減らす助けになる。それは内部資源改良と新たな可能性探究に関わる今進行中(未完)の過程である。それは、低コスト農業の強力な普及戦略ともなるだろう。

 それは農場間、農業者と研究機関の間の知識の交換に根を持つ。最近、フランスは、アグロ・エコロジーを積極的に支援する政策の開発と実施を決めた。フランスだけでなく、西欧EU加盟国全体に、新しいアグロ・エコロジーのやり方を実験している農業者グループ・団体がある。この流れを生み出した大きな要因は、金融・経済・環境の危機である」

 EU域内の食料消費は構造的減少が始まっている。グローバル化で農産物価格は低迷、スーパーの買いたたきで生産費も償えない。環境破壊的農業への市民の批判も高まるばかりだ。大量の購入資器材に依存する集約的(工場畜産)・専門的・機械化大規模農業経営は、もはや成り立たない。 アグロ・エコロジーの発想はそこから生まれた。その産品は通常産品より高く売れるだろう。

 「将来の農業のモデルの一つを提供することになるかもしれない農家=農学者の農場がヴァンデ県にある。ここには、えんどう豆、大麦、小麦、青刈り空豆、トウモロコシ、ナタネ、えんばく、ソルゴー、牧草、小さな木立ち、ポプラなど29種もの作物がモザイク状に並び育つ。蜜蜂の巣箱もあり、雌牛や若鶏もいる。この組み合わせはでたらめではない。例えば、エンドウ豆は大麦が必要とする窒素を固定する。病気に弱い大麦は、病原体が畑に入るのを妨げる別の種に混じって育つことで病害を免れる。

 この農場は1990年代にアグロ・エコロジーに転換した。これは生態系のサービスを利用するやり方で、「自然と戦うのではなく、折り合う」のだという。経営面では、トウモロコシや小麦のような穀物に関するかぎり、収量は通常の農業に比べていくぶん劣る。ただし、収量減は品質の良さで補償される。種子、飼料、肥料、農薬は一切購入しない。これで生産費が減り、19人がこの農場で働くことを可能にする収益が出る。

 木や糞尿を播くことが土壌生産性の基盤である土壌微生物の発達を促し、土壌の耕耘も減る。圃場の周りの生垣が殺虫剤の代わりとなる天敵昆虫を育てる」(フランス 「農業未来法」制定を準備 農業生産と生態系の対立を克服する農業・環境プロジェクトが柱,13.5.13)。 

 これは日本が追求すべき農業モデルともなり得るだろう(多様な”スタイル”で発展 EUの中小規模農業 日本農業新聞  16.8.5 第2面 万象点描)。

 今時、大規模化と生産資器材価格削減で、その豊かな土地資源の故に競争力世界一の国々(オーストラリア、ニュージーランド、アメリカ)とも対抗できる「強い農業」 をと叫ぶ国がある。最近見つかったという地球に似た星にある国だろうか。

 なお、前記肥料・農薬価格引き下げはTPP対策にならない・・・言及したカリフォルニア中粒種米、飼料用米への転換で国産主食用米の価格が最近少しばかり上向くと、たちまち輸入米売買同時入札における落札量がと2年7カ月ぶりの高水準になった(輸入米、落札1万トンを超す 国産高値で外食採用も 日本経済新聞 16.9.8第1回輸入米に係るSBSの結果の概要(28年9月7日) 農水省)。「コメ卸各社には大手外食産業から輸入米調達に関する相談が持ち込まれている」という。業務用米のニーズ拡大に対応して比較的安価な多収性品種への転換を図る一部大規模農家もカリフォルニア米にはかなわないということだ。それでも日本経済新聞によると、小泉「改革を貫徹できるかどうか。安倍政権が進める成長戦略の成否を大きく左右する」のだそうである(小泉氏vs全農「秋の陣」 農業改革の議論再開 日本経済新聞 16.9.7)。アホノミクス万歳!大した「経済」紙である。