農業情報研究所意見・論評・著書等紹介農業・農村・食料関係 2017816日

 

日本の手本・オランダ農畜産の現実 環境へのチッ素蓄積で蝶も殺す

 

先日、日本農業新聞・山田優特別編集委員のEUの「大豆宣言」に関する14日付の記事を紹介した(EU13ヵ国農相 大豆・タンパク質源は外国に頼らず自分たちで作る 言うは易く行うは難し)。同氏はそれに続く15日付の記事で日本の安倍首相が惚れ込んだオランダの農業について現場検証、日本がこの国の農業を手本とすることへの疑念を呈している。

 

すなわち、「昨年のオランダの農業輸出額は850億ユーロ(約10兆円)で、九州ほどの大きさの小国ながら米国に次ぐ2番目。首相が掲げる攻めの農業が目指す1兆円の10倍に相当する。確かに立派な数字だ」だが、「オランダの農業輸出の77%は欧州連合(EU)域内向け。多くが隣国ドイツに向かう。国境検査も関税もなく、愛知県の産地が首都圏出荷するのと違いはない。日本と「輸出」の概念が違うのだ」。

 

しかも、輸出額が一番大きい花きは、低コストのアフリカや南米から大量輸入したバラやカーネーションを他の欧州諸国に再輸出する分が少なくない。畜産の競争力は強そうだが、大豆等飼料原料の多くを輸入に頼っている。

 

その上、オランダの田舎を歩くと、あちこちで畜産ふん尿の臭いがする。小さな国土に大量の栄養分を輸入し畜産を拡大した結果、農地に過剰な窒素やリンが蓄積した。EUや経済協力開発機構(OECD)によると、オランダの効率的な農業生産の追求は、一方で農地の生き物など生物多様性を犠牲にしてきた

 

オランダは手本か 再輸出や環境 課題に 特別編集委員 山田優 日本農業新聞 17.8.15

 

―農業情報研究所:家畜糞尿から出て環境中に堆積する大量の窒素がオランダの蝶の30%を殺したという現地紙の最新報道がある(Nitrogen from excess manure kills off butterflies: AD,Dutch News,17.8.10

  

山田氏は「外国まで出掛けて「オランダのまねをするんだ」と胸を張る首相の農業観とは何なのだろう」と訝る。

  

私に言わせれば、それは問うまでもない。市場価値のあるもの、経済効用のあるものだけが尊重され、環境や景観など社会的に貴重なものでも市場価値で測れないものは軽視される市場原理主義、経済効用主義の農業だ。そんな農業観は、ヨーロッパではとっくの昔(1990年代)から、「モノ」ではない「ヒト」、人間重視の農業観にとって代わられている(中村宗弘 『近代農政思想の史的発展』 2007年)。

 

何が「日本は瑞穂の国です。息をのむほど美しい棚田の風景、伝統ある文化。若者たちが、こうした美しい故郷を守り、未来に「希望」が持てる「強い農業」を作ってまいります」だ(20133月、施政方針演説)。「攻めの農業」、「強い農業」の信奉者には、「息をのむほど美しい棚田の風景」も、「伝統ある文化」も、「美しい故郷」も、みんなカネのなる木にしか見えなのでしょう。なるほど、世界の中心でキンキラキンに輝くニッポンだ。

 

歴史も環境(風土)も異なるオランダの農業のあり方を批判するつもりはない。ただ、日本がそれをまねるのは、ばかげているということだ。