農業情報研究所意見・論評・著書等紹介農業・農村・食料関係 2017年11月22日

 

戦後民主主義の基盤―大衆的零細土地所有―を蝕む農業改革 

 

 政府は、相続時に名義変更が行われず、所有者か分からなくなっている農地(相続未登記農地)について、担い手へ集積を進めるための対策の大枠をまとめた。農地を管理している人が農地中間管理機構(農地集積バンク)と利用権を設定して農地を貸し出す場合、過半の相続人の同意が必要だが、この要件を大幅に緩和。簡易に貸し出しができる仕組みを創設する。その際の利用権の期間を現行の5年から10年以上に延ばし、農地の受け手の担い手が安定的に利用できるようにする。来年の通常国会に関連法の改正案を提出する」そうである。

 

 利用権設定10年以上 同意取り付け大幅緩和 所有者不明農地で政府 日本農業新聞 17.11.22

 

 政府は農業改革―前近代的零細農耕の克服、農業近代化―のために、戦後農地改革が生み出した「戦後民主主義の基盤」―「絶対的」な重みをもつ「大衆的零細土地所有」(持田恵三 「近代日本の知識人と農民」 家の光協会 337頁)に手を付け始めた。それは何処に行きつくのだろうか。あるいは土地の集団化・国有化まで進むのか、やたら『革命』を唱える安倍首相を見ていると、それも究極の到達点かも知れないと思えてくる。ともかく、農業の効率化のためには、社会主義も、共産主義も、資本主義も、民主主義も関係ない、彼はそう思っているのかも知れない。

 

 敬愛する持田兄の前掲図書からもう一度引用しよう。

 

 「日農(かつての左派農民組合)は戦前から自作農創設には反対であり、耕作権の確立と小作料引下げを目標としていた。戦後の農地改革に際しても農民に土地を買うなと説いていた。・・・

 宮脇もまた左派としてこの路線に立っていた。彼は全中会長となった晩年でも、農地改革による自作小農化に批判的であったという。この日農の路線は、国有化とか社会主義革命といった展望を別としても、今にしてみても正しいというべきであろう。零細な土地所有が以後の日本農業の近代化にいかにマイナスに作用したか。しかし、戦後の農民運動が見誤っていたのは、貧農たちの土地所有への熾烈な希求であった。・・・小作農は地主制から解放されたかったのではなく、地主になりたかったのである。その希求の前には『正論』など問題にならなかった。だから組合の方針に反して、彼らは農地改革を受け入れ、小土地所有者となることに満足したのである」。

 

 「さらに高度成長が追い打ちをかけた。・・・農民は米価をはじめとする農産物価格の値上がりよりも、兼業化によって潤うのである」(同書、7-8頁)。

 

 かくて、あれほど希求した農地も無用の長物になった。猫の額ほどの土地を税金払って耕しても一文の得にもならない(と農地をないがしろにする)。かくなる駄農の目を覚まさせるには『正論』、日農の精神に立ち戻る『革命』しかない。安倍が、小泉が、そう言ったかどうかは知らないが、そんなこと想っているのかもしれない。ともあれ、「戦後民主主義の基盤」が蝕まれつつある。農業改革は、まさにその象徴である。

 

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