農業情報研究所意見・論評・著書等紹介農業・農村・食料関係2020年2月17日

 

農政論議:前から分っていたこと、もう手遅れでしょう

 

<後戻りできない「自由化」の下で何ができるというのだろう。日本農業はとっくも昔に「破滅への道」をひた走っております→「農業競争力強化支援法案」は日本農業破滅法案 価格競争ではなく品質競争が生き残りへの道 農業情報研究所 17.2.4

 

消える兼業農家 食糧安保・農地維持に黄信号 編集委員 吉田忠則 日本経済新聞 20.2.17

日本の農家は兼業と専業、どちらが多いのか――。会社などの給料が農業収入より多い農家の数は、2000年に農業収入がメーンの農家などの2倍あったが、19年には両者の数がほぼ均衡した。「専業農家の増加は心強い」と思いきや、事情を探ると、とても喜べる状況にはないことがわかる。

農林水産省によると19年の農家数は113万戸で、00年の半分に減った。とくに減少が著しいのが農業が従の第2種兼業農家で、約6割減の58万戸になった。一方、農業所得が主の第1種兼業農家と専業農家は合わせて55万戸と、3割の減少にとどまった。

兼業農家にはかつて都市と農村の分断を防ぐという社会的な意義があった。高度成長期に地方に工場ができたことで、給料と農業収入を合わせれば、都市部とそれほど遜色のない所得を得ることができた。都市と農村の格差が広がる中国などの新興国にはない社会の安定を実現した。

1980年代後半から円高などを背景に工場の海外移転が進んだことで、この構造の持続可能性に黄信号がともり始めた。兼業しようにも、地方で働く機会が減ったからだ。バブル崩壊後の地方の疲弊も兼業を続けるのを難しくした。

だが最も強く影響したのは、農業を続ける意欲を保ち続けるのが難しかったことだ。兼業農家には「家業を守るため」「長男だから」といった理由で農業を続けてきた人が少なくない。

給料があるため、農業は収支がとんとんか赤字でも続けてきた。だがそうした人々の多くは「農業はもうからない」「息子には継がせられない」と感じており、後継者を確保することができなかった。その結果、親の世代が高齢で引退するのに伴い、兼業農家そのものも加速度的に姿を消し始めた。

一方、専業農家は37万戸と、すでに第1種兼業農家の数(18万戸)も上回っている。では専業を中心とする構造に移行することで、国内の食料供給力を維持できるかというと、ことはそう簡単ではない。じつは15年の時点で、専業農家のうち6割強を65歳以上が占める。

この中には会社などを退職して専業農家になった「もと兼業農家」も多く含まれているとみられる。そして、その多くはいずれ引退する。専業の数は見かけ上あまり減ってはいないが、これから規模を大きくし、農業ビジネスを軌道に乗せることができる経営者はそれほど多くはない。

これが日本の食料生産を担う農業の実態だ。農家数が急減する中、残った生産者だけで農地を維持するのは容易でない。耕地面積の平均が約3ヘクタールなのに対し、100ヘクタールを超える大規模経営が各地で続々と誕生しているが、それでも、耕作放棄の増加は止まらないだろう。高齢農家が引退して吐き出される農地の一部が大規模経営の手からこぼれ落ち、荒れ地へと変わり続けている。

農林中金総合研究所の小針美和主任研究員は「農政は長期的なグランドビジョンを描くことが必要」と話す。輸入や備蓄も含めて、どう国民に食料を供給するのか。労働力と機械、農地という食料供給を支えるインフラをどれだけ確保すべきなのか。高齢農家が引退した後に残った担い手だけでそれを実現するのが難しいなら、どんな手を打つべきなのか。

人工知能(AI)やITを活用するスマート農業を政府が推進している。だが本来、大きな目標を欠いたままではどんな技術を後押しすべきかも定まらないはずだ。補助金をどこにどう出すかを決める際も同様。農業構造の劇的な変化は、大きな目標を打ち立てるよう農政に促している。

 

<同じ日経にこんな記事もある。上の記事とどう折り合うのだろうか>

農政、再び補助金漬けの足音 経済部 松尾洋平 20.1.31

昨年12月、自民党農林部会の幹部が党本部に集まった。農林水産省が毎年まとめる政策指針「農林水産業・地域の活力創造プラン」の改定案が議題だった。配られた資料には「農林漁業成長産業化ファンド(A-FIVE)の積極的な活用」と書かれた部分に削除の赤線が引かれていた。

官民ファンド、A-FIVEの活動終了が事実上決まった瞬間だった。「思いのほかあっけなかった」。関係者が話すように、改定案は大きな異論もなく了承された。

農水省がA-FIVEの新規投資を2020年度末で終了すると決めたのは、優良な投資先を掘り起こせず、193月末で92億円の累積損失が積み上がっていたからだ。「A-FIVEに関心がある人は、少なくとも党内には誰もいないのではないか」。党農林部会のある幹部は突き放す。

投資を通じて農業商品開発や販売を手掛ける農業の「6次産業化」を進めるとうたったが、農水省幹部でさえ「コンセプトに無理があった」と振り返る。A-FIVEの経営難が問題になった昨秋以来、農水省は新ファンドへの衣替えなど様々な案を検討したが、打開策はなかった。財務省も後継組織の設置には首を縦に振らなかった。

結局、自民党内で改めて勢いを増しているのは「農政は補助金が一番だ」(農林部会幹部)との声だ。補助金で生産現場を支え、自民党の票田とする。伝統手法に回帰する足音が高まっている。

日米貿易協定も古い手法に拍車をかける。様々な補助金が大盤振る舞いされ、例えば和牛の生産量を増やすために、繁殖用の雌牛を導入した農家には1頭あたり最大24.6万円の「増頭奨励金」を配る。170万円程度の子牛価格の3分の1を賄える計算になる。

施設整備の支援事業も、対象農家の要件を「地域の平均以上」だけでなく「全国平均以上」に広げ、中小農家に配慮した。19年度補正と20年度当初を合わせ、農林水産の予算は約3兆円に上る。

「このままでは日本の農業はどんどん補助金漬けになってしまう」。農水省内にも、こんな危機感を漏らす幹部はいる。その意味で、官民ファンドの失敗が残した罪は大きい。責任の所在があいまいで、A-FIVEの会合に出たことのある関係者は「投資先をどうするかの議論はまるで他人事に聞こえた」という。出資金の大半は政府のお金で、運用に対する責任や緊張が欠けがちだ。

もっとも、やる気のある事業者が投資を受けて自立して経営し、成長をめざすという理念まで否定できるものではない。農水省は今後、ファンドが経営不振に至った経緯を検証する作業に着手する。農政はまずは「失政」をきちんと総括できるかどうかが問われる。