農業情報研究所意見・論評・著書等紹介農業・農村・食料関係2020年4月23日

新型コロナで穀物輸出国が輸出規制 “輸入国の食料安保に懸念”は本当か

 コロナ禍によって国民の食料が確保できなくなることを恐れる穀物輸出大国が小麦(ロシア、ウクライナ)、米(インド、ベトナム)などの世界の必需食料品の輸出規制に乗り出した、食料の大半を輸入品に頼る日本の食料安保が懸念される、食料自給率の向上に本気で取り組まねならない、最近、そんな話をよく聞くようになった(社説 コロナと食料供給 危機回避へ警戒強めよう 毎日新聞 20.4.23はその一例)。

 しかし、そんな話に、私はずっと違和感を覚えてきた。ロシア、ウクライナが小麦の輸出規制を始めたというニュースが流れても、世界市場はほとんど無反応だ。アメリカ(シカゴ)、ヨーロッパ(パリ)の小麦先物相場もほとんど動かない。世界中の食料価格高騰(”食料危機“)(注1)を引きおこした、かつての干ばつ不作によるロシアの輸出規制とは大違いだ。

何故かと考えているうちに、輸出規制しているはずのウクライナの41117日の輸出量が前週の217000トンから319000トンに跳ね上がったというニュースが飛び込んできた。19/20穀物年度(7月ー6月)の輸出量は417日現在で1856万トンに達した、政府が定めた今穀物年度の輸上限2020万トンまで、あと64万トンしかなく、この分では4月中にも上限に達してしまいそうだという。

Ukraine weekly wheat exports jump 47% despite government warning,Reuters,20.4.19

これで分かった。干ばつ不作による輸出規制の場合と異なり、コロナを理由とする今回の規制の場合には、輸出可能な小麦は国内に山とある。輸出した方が儲かるとなれば、業界は規制を無視するかのように輸出に走ることができる。コロナを理由とする輸出規制は、その実効性が慎重に吟味されねばならないということだ。

 ベトナムの米についても似たような話がある。ベトナム政府も3月、米輸出禁止方針を打ち出したが米は国内に余っている。輸出需要増大のこの機を逃すまいとする業界の声に押され、結局は4月から輸出割当に踏み切らざるを得なかった(MoIT issues rice export quotas this month under PM permission,Viet Nam News,20.4.12(注2)

 世界最大の米輸出国・インドも米の輸出規制に乗り出したと一部マスコミが報じているが、これは「輸出規制」などではなく、コロナ対策としての「全土ロックダウン」を恐れた労働者(運転手、港湾労働者、精米工場労働者等)が田舎(故郷)に逃げ帰ってしまい、輸出は物理的に不可能になっただけの話である(Lockdown stalls Indian rice exports,Bangkok Post,20.4.5)。ロックダウン解除とともに、有り余った米が世界市場に再び流れ出すだろう。

 コロナを理由とする輸出規制はどれほどの実効性があるのか、それが世界市場にどんな影響を与えるのか、慎重に吟味する必要がある。さもないと、それに対する対応も誤ることになるだろう。

 食料自給率向上、結構。しかし、それは国内農家を痛めつける安価な外国産品の流入に対する防壁なくしては実現できなない。コロナ禍は見かけ上の輸出規制をもたらすだけではない。対中貿易戦争にコロナの追い討ちで大豆は生産コストを下回る状況が続き、家畜相場もそれ以上に下落している米国は、輸出攻勢を一層強めるだろう。

コロナ輸出規制を機に世界食料安全保障のために食料品の流れに対する国境障壁をなくそうとする国際社会の流れ(FAO urges at G20 meeting protection of food supply chains amid COVID-19 threat,FAO,20.3.22[新型コロナ] 食料安保で協力 輸出規制回避へ 声明採択 G20農相 日本農業新聞 20.4.23)は警戒を要する。

 (注1)以下の記事を参照されたし(著者はすべて北林寿信)

 

食料高騰時代突入、「日本丸」難破の恐れ TPP反対企画 第3弾) 現代農業 20114月号 342345

 

食料安全保障を脅かす穀物価格の高騰(世界の潮) 世界 201012月号 29-32

 

ますます脆くなる世界の食料供給基盤(世界の食料農業 インテリジェンス4) 季刊地域(農文協) Winter 2010 No.4 112114

 

いま、そこにある「食料危機」  貿易自由化は穀物不足をさらに悪化させる 現代農業 087月号 346-349頁。

 

世界食料日誌:08~12年(農業情報研究所)

 

   (注2輸出業者とメコンデルタ農民は、輸出割当ではなく、その撤廃を求めている→Rice growing localities, exporters want export limits scrapped,Viet Nam News,20.4.23