農業情報研究所意見・論評・著書等紹介農業・農村・食料関係2020年6月6日

 

コロナ禍で見えてきた持続可能な農業経営

 

 新型コロナが農業経営に与えつつある影響は多様だが、次の二つに大別できる。

 

 ①新型コロナに伴う人の移動規制が、収穫期など繁忙期に必要になる追加労働を外国人実習生など臨時労働者の雇用でまかなってきた野菜産地大規模経営に深刻な労力不足もたらしている。

 

 ②不要不急の外出自粛による外食店休業が、主に外食産業向け食材を供給してきた経営の産品の需要減少と価格の耐え難い価格低下をもたらしている。

 

 ①野菜産地の労力不足については、休業の観光人材を農業に 外国人実習生の「代打」も日本経済新聞 20.5.25)、<新型コロナ>農家「人手どうすれば」 中国人実習生の来日めど立たず 作付け縮小の恐れ東京新聞 20.3.23を参照。

 

 ②については多くの情報がある。いくつか例をあげておけば、

 

[新型コロナ] ブランド地鶏 販売量激減 外食需要いつ回復 「あと3週間で満杯」 加工止められない 日本農業新聞 20.5.8

宮城県産牛の価格急落 コロナ余波 県PR「すき焼きやしゃぶしゃぶに」 河北新報 20.4.20

[新型コロナ] 需要減深刻 和牛過去5年で最安 2000円台割り込む 日本農業新聞 20.4.4

<新型コロナ>佐賀県産タマネギ、半値に 外食低迷で業務用が落ち込み 農相「タマネギに特化して対策はできない」 佐賀新聞 20.5.13

 

このような逆境に対する様々な対応策が模索されている。

 

労力不足については、新型コロナで当面の仕事を失った人などを動員しようとする試みがある。

「群馬県嬬恋村では、休業中のホテルや飲食店などから働き手を募集し、6月から収穫の繁忙期を迎えるキャベツ栽培に従事してもらう取り組みが始まった。今春から受け入れ予定だった外国人技能実習生320人のうち、200人余りが入国できず、労働力不足が深刻化していたためだ」(上掲、日本経済新聞)など。

しかし、こんなこといつまで続くだろう。決して「持続可能」なやり方とは思えない。単一作物の大量生産から脱皮、経営縮小、あるいは多角化こそ持続可能な道だろう。

 

外食需要等の減少で行き場を失った産品については、直売所での直販、ドライブスルーでの直販売、ネット通販、宅配・・・など、消費者と直結する様々な方法の工夫で販路を拡大する試みが広がっている。ただ、和牛肉など”高級”肉類では、いまのところ代わる販売法はなさそうだ。「わが家では、米は山形の山奥の農家から直送してもらい、野菜のほとんどは近所の都市農家の直売所で買っている(魚、果物も産地直送、肉はもともと、あまり食べない)

    

 野菜購入もドライブスルーで 行き場失った食材を格安販売 仙台 河北新報 20.6.3

 巣ごもり需要の宅配増 東北の生協、定着期待 農産物や冷凍食品好調 河北新報 20.6.3

 卵の出前いたします 予想以上の注文「地域立脚の大事さ実感」 河北新報 20.5.23

 サクランボ狩り自粛で宅配に活路 東根市観光物産協会 河北新報 20.5.15 

 自慢のイタリア野菜、ネット販売 かほくの研究会、一般向けに活路 山形新聞 20.5.5

 県産品販路拡大へ東京にセレクトショップ 陸奥新報 20.4.10

 酪農と観光業が協力 需要減の牛乳をジャムに 那須の星野リゾートと森林ノ牧場 下野新聞 20.6.4

 <新型コロナ>川崎の朝採れ野菜 ドライブスルーで 宮前のセレサモスで販売(神奈川) 東京新聞 20.5.24

 <新型コロナ>県産の花や野菜、需要減少の農産物を応援 電話やネットで注文、県が応援サイト開設 埼玉新聞 20.5.17

 中川から全国へ 農産物定期便 果物や加工品、季節ごとに 信濃毎日新聞 20.6.2

 サクランボ直送、来月も受付 松川町の観光農園 信濃毎日新聞 30.5.29

 伊那市長谷の農産物 ドライブスルーで 長野日報 20.5.15

 サクランボ農園「観光」から「出荷」へ 飯田下伊那 県外客見通せず 信濃毎日新聞 20.5.12

 行き場ない農産物や加工食品、無駄にしない 販路確保の動き続々 信濃毎日新聞 20.4.23

 地元産の安全な野菜を 地域の話題 ミナミシンシュウ 20.4.8

 コロナで販路減少、収入確保 野菜の無人販売試行 函南 静岡新聞 20.4.

 

新型コロナが招いた危機、日本の農家も、ようやく消費者との直結の重要性に目覚めたようだ。貿易自由化で安価な外国農産物が大量に流入する環境の下で、ひたすら機械化・大規模化による効率化でスーパーや外食産業が支配する食品市場で勝負しようというのは、決して持続可能な道ではない。

 

戦後一貫して機械化・集約化・大規模化による近代化を追求してきたフランス農業は、オイルショック(74年)から1980年まで、未曽有の危機に直面した。それまで増え続けてきた食料消費は飽和に達し、過剰生産による価格低迷で実質農業所得は連年低下、農業経営は多額の資材購入費用や資本費用(特に土地)を償えない危機に追い込まれた。

 

このとき、敢えて「経営縮小計画」を立て、苦渋労働から解放され、外部からの購入は極力減らし、経営内外のあらゆる資源を最大限に活用し・不足する所得を農業以外の活動、とりわけ直接販売、自家加工、民宿・レストランなどで補完する「近代化に抵抗する農民」、「有機農民」、都市から回帰した「新農村民」などによる、「多様な自然と深く結合した農業の本来の姿である『多様な農業』」(フランス国立農学研究所(INRA)の研究副部長=F.ペルネ、『農民の抵抗』(198年))が燎原の火のように広がった。

 

こういう農業経営が現在のフランス農業の持続可能性を支えている。

 

フランスの農業経営数は大きく減っているが、経営農地面積は20002981万㌶から20162864万㌶とほとんど減っていない。経営者の平均年齢も49歳から52歳とほとんど上がっていない。高齢で引退した経営者の経営も経営耕地も次世代農業者に見事に引き継がれている。 それを可能にしているのが、生産者と消費者の直結による、品質を保証された国産農産物・食品の販路の確保である(参照:EU 高品質・安全・動物と環境に優しい農産物の販促支援で農業の成長を助ける(農業情報研究所15.11.29

 

コロナ禍のなかで消費者との直結を模索し始めた日本の農業経営者、いまこそ持続可能な農業に挑戦すべきときではなかろうか。

 

大規模経営にはそれは不可能だ。

 

「農業経営の持続性は経営規模により条件づけられるものではない」、「小経営は逆境からすぐ立ち直る弾力性を持ち、自分自身の資源(労働、経営資本、土地)で稼働し、価格の乱高下に対抗するための有効な<低コスト>戦略を持ち、社会の要請、景観・生物多様性保護の要請にもうまく対応できる」(小規模経営の方が持続的で農業成長に寄与 ヨーロッパ農業モデルに関する欧州議会の研究 農業情報研究所 16.6.26)。

 

N.Y.シティ—で小農場ブーム 大農場は破産の危機 新型コロナ時代の農業は?(農業情報研究所 20.5.10)も参照されたし。