農業情報研究所意見・論評・著書等紹介農業・農村・食料関係20206月10日

 

食料自給率向上で盤石な食料安保を!自給率はどうしたら向上するの?

 

 宮部芳照・元鹿児島大學教授が農業共済新聞の最新号(202062週号 2020年(令和2年)610日 第3319号)に「コロナ禍 盤石な食料安保 確立の時」と題する一文(「意見」)を寄せている。近頃よく見かける主張で、この類の主張の見本として全文を掲げておく。ただし、この主張に同調するものではない。

 

 食料自給率を食料安保の指標とすることには根本的疑問があるし(仮に日本周辺における軍事的紛争勃発でシーレーンが破壊され、海外から食料を日本に運べないといった万が一の事態が起きても、例えばわが家にお米を直送してくれる山奥の農家や新鮮な野菜を直売してくれる都市農家のような農家が健在であるかぎり、食料自給率37%だからといって63%の日本人が食料を手に入れられないとか、一人一人が必要なカロリーの37%しか摂取できないといった事態が起きるわけでは決してないのだから)、また食料自給率向上を叫びながら、どうすればそれが実現するか、従来施策以上のものは何も示していない(「2000年に自給率目標を設定以来、一度も達成されていない」理由の解明がない)からだ。

 

これは、食料自給率ではなく「食料自給力」なる概念を取り上げ、農地が現在の439.7万㌶から392万㌶へ、農業労働力が208万人から130万人へとこれまでの趨勢に従って減少しても、「農地と労働力をともに最大限活用されるよう最適化した場合の供給可能熱量は2,096kcal/人・日となり、ほぼ推定エネルギー必要量が確保される」とした新「食料・農業・農村基本計画」についても同様だ。「農地と労働力をともに最大限活用」する農家=農業経営の「持続性」をどう確保するか、相変わらずの「産業政策」と支援対象そのもの消滅で行き詰った「地域政策」の「両輪」政策以外、新しいことは何も言っていないからだ。

 

自由化の時代、安価な外国産品との「価格」競争から離脱しないかぎり、この「持続性」を維持することはできない(⇒「欧州農業は最も競争力が強い世界の競争者と同じ価格で原料を世界市場に売りさばくことを唯一の目標として定めるならば、破滅への道を走ることになる。それはフランスの少なくとも三〇万の経営を破壊するような価格でのみ可能なことであり、それは誰も望んでいない」、「農業のための大きな公的支出は、それが雇用の維持・自然資源の保全・食料の品質の改善に貢献するかぎりでのみ、納税者により持続的に受け入れられる」―農業の多面的機能への援助を定めた1999年フランス農業基本法のルパンセック農相による提案理由説明)。活路はコスト削減ではなく、国産農産食品の高付加価値化とその販売促進にある。お手本はアメリカやオーストラリアではなく、フランス、ヨーロッパにある(EU 高品質・安全・動物と環境に優しい農産物の販促支援で農業の成長を助ける 農業情報研究所 15.11.29)。

 

なお、心配されるような世界的食料不足は、予見される将来においては想定し難い(FAO Cereal Supply and Demand Brief,FAO,20.6.6)。

 

 「コロナ禍 盤石な食料安保 確立の時」の全文

 

「地球規模で新型コロナウィルスの感染が続いている。世界の食料生産国の中には、穀類や基礎的食品の輸出規制の動きが始まっている。今後、感染が深刻化するとその保護主義的な動きは一層加速すると考えられる。緊急時に自国の食料を自らの力でどれだけ確保できるのか、再考してみる必要がある。

 

 農林水産省は、最近の食料輸出規制の動きについて、規制国からの輸入実績は大きくはなく、食料備蓄も十分あり、影響は限定的であるとみている。しかし、コロナ感染がさらに深刻化した場合、穀類に限らずその他の農業畜産物の輸出規制が強まる最悪事態も想定しておくべきである。

 

 今後も人類とウィルス感染症との戦いは永続すると予測され、また頻発している世界的異常気象による農作物の不作が直ちに食料不足につながるリスクは容易に想定できる。そのために、人の命を守る指標でもある食料自給率の向上はわが国の食料安全保障の確立に不可欠である。感染症拡大の最悪事態に備えたリスク管理の強化がぜひ必要であろう。

 

 今年、新たな食料・農業・農村基本計画が決定された。その中で、総合食料自給率の2030年目標をカロリーベースで45%、生産額ベースで75%とした(18年度は過去最低の37%、66%)。また、新たに食料国産率を設定しているが、これらはカロリー・生産額ベースとともに主要先進国の中で低い水準にある。カロリーベースによる算出は国際的に主流でないとはいえ、日本人の食料の海外依存度は非常に高い。

 

 さらに問題は、わが国で2000年に自給率目標を設定以来、一度も達成されていないことである。今回、コロナ禍が農業に大きく影響しているが、目標達成にこれまでの轍を決して踏んではならない。将来、感染症拡大など予測される不透明な時代であればこそ、自給率向上による食料安保の確立は必須である。

 

 そのためには、大規模農家への支援はもちろん、日本農業の基盤を支えている中小規模農家への一層の支援が不可欠である。さらに、耕作放棄地、遊休農地の作付拡大支援、AI(人工知能)利用による技術開発や食品ロスの削減も官民挙げた努力が必要であろう。盤石な食料安保の確立は次世代への大きな責務でもある。」