農業情報研究所意見・論評・著書等紹介2016年1月5日:農政新時代

「農政新時代」の中身 農業生産資材・産品の流通・価格形成見直し 絵空事のほか何もない

 今日の日本経済新聞で、清水真人・編集委員が、元旦から「農政新時代」を仕掛けたと小泉進次郎・自民党新農林部会長を持ち上げている。だが、「新時代」農政の中身を問えば絵空事、何が「新時代」かと頭をかしげるようなしろものだ。つまり、①「生産者の所得向上につながる生産資材(飼料、機械、肥料など)価格形成の仕組みの見直し」、②「生産者が有利な条件で安定取引を行うことができる流通・加工の業界構造の確立」 の二つにより、「政治の責任で」これら「生産者の努力で対応しきれない分野の環境を整える」のが、やる気のない農家を補助金で助けるのをやめる新時代農政なのだそうである。  

 小泉進次郎氏が元旦から仕掛けた「農政新時代」(編集委員・清水真人) 日本経済新聞 16.1.5  

 これも近頃全盛の、事実の裏付けもなく、論理もハチャメチャな農政論の一つなのだろう。

 ①は、ホームセンターなど農協以外の小売店が一部の小袋肥料を安売りしていることにヒントを得たものだろう。しかし、そんな小売り業が肥料流通を支配することになれば、メリットよりもデメリットの方が多いだろう。

 肥料の製造コストの6割は大半を輸入に頼る原材料の費用であり、国内肥料価格は輸入原料価格の影響を大きく受ける(農水省 肥料をめぐる事情 2015年4月)。

 国内化学肥料の流通では全農グループが中心的役割を演じており、農業者への販売数量の74%が農協を通しての販売である。価格も毎年6月と11月に実施される全農と肥料メーカーの交渉で決められている。

 新時代には全農の支配的地位を排し・こういう「価格形成の仕組み」を変えるというのだろう。だが、この仕組みあればこそ、「平成20年に発生した肥料原料の価格と急騰についても、この価格統制力が功を奏し、肥料の小売価格の上昇を大幅に抑制」できたという「事実」がある(肥料原料の輸入実態と円安 農業と経済 2015年6月号)。 

 その上、「今後の価格動向については、現在はこのような大きな変動要因がないことや石油価格が1バレル50ドル台で比較的低い水準となっていることから、円安ではあるものの短期的には大きな価格上昇となる可能性は低い」が、「長期的には価格が下がる要因が見当たらず、価格上昇の可能性は高い。その要因として、国際的要因としては人口増加に伴い肥料消費量は増加傾向にあり、生産者や輸出者が寡占傾向にあること、国内的要因については円安、物価の上昇、日本の需要減少に伴う国際市況におけるバイイング・パワーの低下、肥料メーカーの再編など、価格上昇要因が非常に多い」 (前掲、農業と経済)。そのとき、全農に代わる安売り専門店に肥料安定供給=肥料安全保障を託せるのだろうか。

 いま必要なのは、「価格形成の仕組みの見直し」ではなく、原料価格上昇につながる「円安」政策、アベノミクスの見直しの方ではないのか。 

 飼料については、こで念頭にあるのは原料の大部分を輸入トウモロコシ(と大豆滓)に頼る配合飼料であろう。その価格も輸入原料の価格に大きく影響される。2013年半ばまでトン300ドルを超えていたトウモロコシの米国輸出価格は、いまや175ドル以下、40%以上も下がっている。ところが、輸入価格はトン32000円ほどから25000万円ほどに、20%ほど下がっただけだ( 飼料用トウモロコシ輸入価格と米国トウモロコシ輸出価格)。この間、20%もの円安が進んだためだ。一部流通業者の「支配的」地位を排してもどうにもなるものではない。ここでも、「円安」政策、アベノミクスの見直しが先決だろう。これはまさしく「生産者の努力」ではどうにもならない、「政治」の領域の問題だ。

 ②については何をか言わん。それを実現するためには、今や食料品小売で圧倒的シェアを獲得したスーパーのとめどのない安売り競争をやめさせねばならない。しかし、この安売り競争は、貿易自由化で世界の隅々から最安の商品調達が可能であるかぎり続く。国内生産者がそんな価格では納入できないと言えば、そんなら外国から調達するからいいと言うだけだ。グローバル化の時代、この安売り競争に挑戦したイギリス、フランス・・・・・・世界のどの国も、それに歯止めをかけることに成功していない。

  「生産者が有利な条件で安定取引を行うことができる流通・加工の業界構造の確立」を言うなら、何よりも貿易自由化の流れをせきとめ、地域の商店街の復活やファーマーズマーケットなどの「ローカル」な市場の振興で、スーパーを食料品小売り市場におけるマイナーな存在に追いもどすことだ。しかし、規制改革会議が農政論議に多大な影響を及ぼす現政権下で、そんなことが実現するはずがない。ましてTPPは貿易自由化をせき止めるどころか加速するばかりだ。

 できもしないことを誇らしげに言う、これぞ本当のデマゴーグだ。

 *スーパーと対照的なその意義については、例えばローカルなマーケットはスーパーよりも遥かに大きく地域・消費者に貢献ー英国シンクタンク(06年5月23日)を参照。