農業情報研究所意見・論評・著書等紹介2015年3月4日:3月9日追補

飼料用米拡大の風潮を問う 水田の牧草地化こそ米消費減退時代の最善の選択

 時代は変わったものである。日本一の米どころ、新潟県で「飼料用米の増産に向けた取り組みが動きだした。JAグループ新潟は、2015年産の出荷計画量を3万トンと、14年産の約8倍に増やす。米価下落を踏まえ、国の助成措置が手厚い飼料用米への転換を促し、主食用米の需給安定に結び付ける方針」とのことである。

 [現場から] 飼料用米 8倍に増産 主食用価格安定へ 米どころ新潟 日本農業新聞 15.3.2

 戦後間もない私が小学生のころ、親父は農家の二三男だったからわが家の田んぼはなかった。それでも隣家の代掻き時の堆肥散布や田植え、稲刈りなどのきつい作業を手伝った。農家の苦労をく知る私は、米はなくてはならず・とてつもなくありがたい食べ物、一粒たりとも無駄にしてはならないという言葉をごく自然に受け容れ、ご飯茶碗にくっついた米を、最後はお湯や味噌汁をかけて一つ残さず食べていた。農家の人たちも、それでこそ米の作り甲斐を覚えたに違いない。

 時代は変わったものである。近頃米どころの料理屋や旅館・ホテルでも食事時、必ずお目にかかるのが、ご飯は要らないとか、ご飯は少なめにしてとか言うお姉さんやお腹の出っ張ったおじさん、おばさんだ。農家の人が、食べてくれるのは、もう人でも牛でも豚でも鶏でも何でもいいとやけくそになるのも無理はない。

 米の消費は減り続け、米余りから米価は最先端農家の生産費も償えないほど下がっている。人が直接食べる米(主食用米と言うらしい)の生産を減らし、余った水田で麦や大豆や、結局は人が消費する酒米や加工用米に転作する「水田利活用」策ももはや限界だ。

 おまけに安倍政府は、それが掲げる農政改革の一環として、主食用米作付面積10アール当たり1万5000円の固定直接支払(米の所得補償)、米価下落への十全な対応を可能にする米価変動補填という民主党政権時代に導入された生産調整協力に対する見返り措置(「岩盤」とも言われる)を廃止し、さらに「水田活用」のための主食用米以外の水田作付け作物への助成(水田活用所得補償)を受け取るためには生産調整に協力しなければならないという条件も取り払うという、将来の廃止も見越した生産調整見直しに着手した。

 現在の生産調整は「農業の担い手の自由な経営判断を著しく阻害している」とか、生産調整で維持される「高米価」とそれに連動した米の所得補償が小規模・兼業農家を温存、「担い手」への農地集積、大規模化、生産コスト引き下げ、日本稲作の競争力強化を妨げているとか、「言いがかり」(注)でしかない理屈をこねてである。安売りへの抵抗勢力である農協グループ潰しに狂奔するスーパーグループが考えだした論理である(オーストラリア スーパーの農民いじめを防ぐ行動基準が発効 日本は農協いじめの真っ盛り)。

 とはいえ、生産調整見直しが引き起こすさらなる米余りと米価下落は日本の水田農業の壊滅につながりかねない。そこで政府・自民党が言い出したのが、主食用米から飼料用米への転換の誘導であった。新潟のJAグループも、背に腹は換えられないと、この誘いに乗ったわけだ。新潟だけではない。JAグループは既に、2015年産飼料用米の取り扱い目標を60万トンと決めている。

 そこで私が気になるのは、JAグループがこれを一時的な緊急避難措置と考えているのか、目標を引き上げつつ今後も続ける恒久的措置と考えているのか、ということだ。前者なら理解できないことはない。しかし、後者なら、これは最悪の選択だ。

 飼料用米生産は、生産費のほとんどすべてを補助金で埋めなければ成り立たない。飼料用米は輸入トウモロコシと同等の価格で売らねば市場がない。輸入トウモロコシの輸入価格はトン2.5万円ほどだが、米はその10倍もの価格で売らなければ採算が取れない。この差額を補助金で埋めなければ飼料用米生産は成り立たないのである。

 実際、政府は、飼料用米生産には収量に応じて変動する交付金を支払う。収量が10アール530sなら10アール当たり8万円、収量が680sなら10アール当たり10万5000円だ。2013年産の10アール当たり米生産費は平均で13万4000円ほど、最大作付規模層(10f以上層)で10万2000円から1万4000円ほどだから、収量が最高レベルの場合には生産費に匹敵する補助金を手にすることができる。平均的な530sの場合でも生産費の6割は補助されるということだ。

 この交付金支払のための国家財政負担はいかほどのものか。収量530sの場合の10アール当たり8万円の交付金はトン当たり15.1万円に相当する。これを60万トン分に換算すると交付金総額は906億円になる。収量680sの場合には926億円だ。現在半額(10アール当たり7500円)に減額された米の所得補償のための予算額は800憶円ほどだから、近々廃止されるだろうこの所得補償以上の財政負担(納税者負担)が生じることになる。15年飼料用米の全国使用量は100万トンと見込まれているから、その補助費用は1500億円を超える。減額前の米の所得補償のための財政費用と変わらない。

 こんな補助金漬け農業が持続可能だろうか。国民が不可欠とする食糧の確保のためなら、それも許されるだろう。それを食べさせることが(輸入トウモロコシを食べさせることに比べて)家畜の健康にいいとか、良質な肉や卵や乳ができるとか、餌代の節約になるとか、食糧安全保障に貢献するとか、メリットが何もない飼料用米にこんな大枚を注ぎ込むことを納税者が許すだろうか。それを可能にするのは、国内敵無しの安倍政権の強権だけではないのか。 だが、それでは補助金漬け農業からの脱却という安倍政府の農政改革目標を自ら棄てることにならないか。

 悪いことは言わない。前から言っていることだが、米消費が減る中で日本の水田が荒野に還るのを防ぐ最善の方法は、余った水田を牧草地に変え、家畜を放つことだ。特に中山間地域では。健康的な畜産品を求める消費者の要望に応え、日本人好みの美しい田園風景を維持することもできる。

 「天皇杯受賞者などでつくる日本農林漁業振興協議会は27日、中山間地域農業の将来展望に関する政策提言を発表した。安倍晋三政権が力を入れる「地方創生」も、農林漁業の経営が成り立たなければ成功しないと訴え、中山間地域の「小規模・分散性」を生かした農林漁業を支援する施策を求めた。
 提言では、特に畜産の重要性を強調。山林や耕作放棄地で放牧し、粗飼料を自給する経営を提案した。政府には、放牧による経営のモデル地区の支援や、放牧に適した品種の導入支援などを求めた」というニュースもある。 

 小規模・分散性生かせ 畜産の活用強調 中山間地農業で天皇杯受賞者ら提言 日本農業新聞 15.2.28

 追補:3月9日 飼料用米への「逃避」をやめ、水田放牧で「希望の種」を―飯舘村松塚市区の将来構想を踏まえて

 本日付の河北新報が伝えるところによると、福島原発事故で全村避難を余儀なくされている福島県飯舘村松塚地区の山田猛史さん(66)が帰還後の地区再生策として、「『遊休農地になるだけの水田をまとめ、広大な牧野にする』という『水田放牧』」を提案している。

 松塚地区の約60fの水田は9割以上が除染され、環境省は除染後の水田に土壌改良材や肥料などをまいて復田を助ける方針だが、地区が昨年行った44世帯の意向調査によると、帰還したら稲作を再開するという回答はなかった。山田さんは、「皆、コメに期待をなくしている。風評で売れないという諦めがあり、(浜通り産コシヒカリで約4割下落した)昨年の米価暴落も効いている」と言う。

 そこで水田放牧の構想が浮かんだ。以下、記事をそのまま引用する。

 「『水田放牧』は、区画が整っている水田を荒廃させずに活用するアイデアだ。除染後の水田を集めてあぜを取り払い、複数をつなげて牧草を育てる。北海道並みの広い牧野に牛を放牧し、施設園芸と両輪で地区を再生させる。一角に太陽光発電施設を導入するプランも含め、土地利用計画作りを地区で話し合ってきた。
 『実現すれば、自分は真っ先に牛を連れて帰り、80歳まで頑張るつもり。それまでに後継者や、一緒に働きたい人が加わるだろう』
 地区の外れに、全戸が組合員として共有する牧野がある。除染土の仮置き場として利用すると村内でいち早く決めた。国からの地代も平等に分ける。『松塚には力を合わせる伝統があり、放牧地も住民の共有の財産になる。育てる牛のオーナー制度もつくれば、村外から人の交流や支援を呼び込む場にできる』と山田さんは希望の種を温めている。」

 <その先へ>水田放牧で農地再生/畜産農家・山田猛史さん(福島県飯舘村) 河北新報 15.3.9

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 わが意を得たりである。これは原発事故被災地だけではない、米価暴落で耕作意欲が萎えつつある一般中山間地にとっても非常に魅力的な構想である。「水田の牧草地化こそ米消費減退時代の最善の選択 」というのは私だけの思い込みではなかったことが改めて確認された。かくなる上は、飼料用米への「逃避」ではない、先を見据えた「水田放牧」の本格的支援を国に要望したい。 そうすることで、中山間地再生の「希望の種」を撒いてもらいたい。

 (注)米の所得補償や水田活用所得補償のメリットは「担い手」と目される「大規模経営」ほど大きく、米価変動補填と相俟って経営に確たる見通しをもたらし、規模拡大の促進に役立ってきた。1f未満の小規模農家が受け取る米の所得補償は1.5万円から4.2万円、400万を超えるこれら農家の総所得のたったの1%未満にすぎない(2012年の数字)。これら補助金と生産調整が「「担い手」への農地集積、大規模化、生産コスト引き下げ、日本稲作の競争力強化を妨げている」などと言うのは完全な言いがかりにすぎない。

 なお、この点に関して詳しくは、拙稿:第二次安倍政権の農政改革を問う―米政策見直し・構造改革と農業・農村・農民― 世界(岩波書店) 2014年4月号を参照されたい。