農業情報研究所意見・論評・著書等紹介2012年9月29日

アメリカ干ばつで世界食料危機?否、畜産と肉食文化の危機だ

(「シカゴ商品取引所小麦・トウモロコシ・大豆先物相場の推移」のコメントより)

 9月28日、米農務省(USDA)が9月1日現在のトウモロコシ在庫は1年前に比べて12%減、大豆在庫、小麦在庫もは同じく21%減、2%減と発表した。

 http://www.usda.gov/nass/PUBS/TODAYRPT/grst0912.txt

 トウモロコシ在庫は市場の予想を11%下回り、小麦在庫も市場の予想を8%下回る。米国農家は干ばつによる損害を最小限にとどめるべく大急ぎで収穫を進めており、そのためにこのところ暴落気味だったトウモロコシ、小麦が、この発表でストップ高の急騰に転じた。在庫データから逆算すると、9月までの3ヵ月のトウモロコシの飼料としての利用は前年を15−25 %下回るが、代わりに小麦の飼料としての利用が倍増していることになるという。

 大豆在庫は市場予想を大きく上回っているが、需要抑制には高価格が必要と、これも反騰に転じた。8月31日に終わる1年の第4四半期の大豆消費は4億9890万ブッシェル、前年同期の4億500万ブッシェルを大きく上回っている。大豆需給は今後半年、タイトになろうという。

 Grain jumps on US inventory figures,FT,9.29
 Corn Futures Jump Most Since June on Unexpected U.S. Supply Drop
,Bloomberg,9.28

 アメリカの干ばつに端を発した穀物価格高騰は収束に向かうように見えていたが、そういう観測はどうやら甘かったようだ。とはいえ、米(国際米価格の最近の推移)や小麦が現状程度にとどまり、前代未聞の値上がりがトウモロコシ(飼料)、大豆(飼料・油糧)にとどまるかぎり、影響は限定的、08年のような世界食料危機につながることはないだろう。実際、とんでもない値上りが始まって3ヵ月、世界のどこからも食料暴動は報じられない。畜産農家の悲鳴が聞こえるだけだ(イギリス:飼料コスト上昇で養豚農家撤退が続々 豚肉も贅沢品に,12.9.11

 アメリカの干ばつ引き起すかもしれないのは、世界食料危機ではなく、畜産と肉食文化の危機であろう。今のように肉や卵が毎日食べられるようになったのはそう昔のことではない。第二次大戦後のアメリカにおけるトウモロコシの大増産→トウモロコシを主成分 とする配合飼料の自動給餌―が可能にした畜産革命(工場畜産の開発と世界普及)がそれを可能にしたのである*。小麦を犠牲にしたアメリカにおけるトウモロコシ(とその輪作作物である大豆)の大規模生産の崩壊がもたらすのは、工場畜産の破綻であって、世界食料危機ではない。アメリカは、そもそも世界の穀倉などではなかったということだ。人類と地球環境にとって、トウモロコシ・大豆生産→工場畜産の破綻は、むしろ歓迎すべきものでさえある。

 *北林寿信「米国の肉牛生産の現状と狂牛病―“必然”の病をくいとめるには」 『科学』 科学(岩波書店) 2006年11月号